史の詩集  Fuhito Fukushima

福島史(ふくしまふひと)の詩集です。

Vol.11−2

詩Vol.11

 

31.恋狂

 

ああ 白棒の木よ おまえには

僕の前に広がる大海の荒々しさを

それを渡っていこうとする僕の力強い決意を

僕のこの見にはあまりにあふれるのが

もったいなくて 活かしてやったもんだね

 

その僕が今日は 情けないくらいに

ズタズタの心をひきずって

弱音を聞いてもらいたくてきたのだ

笑ってくれ ののしってくれ

所詮つまらぬ男だったのだ 

沈黙はあまりに苦しい

 

おまえは恋という廃物を知っているかい

そして、その魔物に踊らされつづけていた男を

知っているかい 

 

僕だよ 僕だ あまりに若い

若くてわるいか わるいわけない 

わるいのは 押さえのきかぬ この心 

わが身のせつなさよ

 

まわれ まわれ 地球よ まわれ

まわって まわって 時の流れに 

この悲しみを 散らしてくれ

 

 

32.憤り

 

わかっていたさ わかっていたさ

君の心に僕は住んでないこと

それなのに君は僕にやさしかった

君のやさしさにすがりついてきた僕だった

 

悲しいさ 悲しいさ 何だか無情に悲しいさ

君は舞台のヒロイン

僕の心の中も歩きまわる

好きなだけ踏みあらして

僕がつかまえられぬうちに去ってしまう

 

君は冷たい やさしいあまりに冷たい

君は僕に笑ってくれる、僕がそう言えば

しかし 僕は それより言いだせない

 

 

33.恋風

 

君を愛しはじめて七年目

ずいぶんといろんな風が

僕を吹いたけれど

通りすぎたら

いつも からっぽ

 

どんなに望んでも

つかめない風

されども されども

吹いている

 

一吹きごとに 心の炎は舞いあがる

もう七年だよ こんな毎日が

恋のたぎりが失せないのは

ありがたいけど

つらいったらありゃしない

片恋のせつなさは 今日も

風の上をかすめていく



34.ハートブレイク

 

君を見たときの驚き

僕の心臓が人並みなら

止まってしまっただろう

 

血がとくとくと体をめぐる

あつく あつく 息が苦しくなるほどに

 

君はほかの男に抱かれていた

そうさ 僕は いつも悲しみさ

夢に生きる哀れなもんよ

 

君はうっとりしていた

僕の心臓をぐさぐさと突きさして

 

あなたにとってこの上ない思い出

甘いひとときは

僕を責め苦の地獄に突きおとす



35.ある秋の日

 

こんなにさびしい酒場に一人

傷にしみいる秋風うけて

苦しむだけ苦しみゃ 楽になるかと

飲む金もなく よりつく女もなく

ただ 疲れはてて 羽を休める

 

そんなにしょげるなよ

何にもないとおまえは言うけど

若さがあるじゃないか

あるいはもしやと期待しただけ

無駄だった

 

恋しい人は一目も向けず

僕を通りすぎていった

恋するだけ恋すりゃ 思いつきるかと

何もかも投げだして愛したのに

ただ 疲れはてて 涙がかれる



36.雪

 

雪がぽつりとわびしそうに

降ってきました

僕は小さな手で

つつんでやろうと

必死に駆け回りました

 

やっと手のひらに入ったと

思ったとき

雪はもはや涙となっていたのです

 

僕は悲しくなりました

僕が余計なことをしなかったら

雪はもうどれだけか

空の旅を楽しめたのです

 

僕はただ冷たさを

美しく飾っている雪が

うらやましかったのです

 

永遠のあこがれ

かぎりなく雪は白いのです

地上についたら

だめなのです

 

だから、僕はやさしさの

ひとかけらをもたぬ

雪を追いかけていたのです



37.薔薇

 

僕がまだ14のときだった

僕は 一輪の薔薇に気づいた

美しきものに生得の反抗心を

持っていた僕は それを

蹴ちらかしたくてたまらなかった

しかし 薔薇はいばらの向こうにあった

丸腰の僕は憎しみをこめた目で

見つめるしかなかった

 

僕は我欲のため 毎日少しずつ

いばらを棒でとりのぞいていった

夏の直射のもと 僕は幼い

維持(意地?)だけを通しに努力をつづけた

 

冬の突風のもと 僕は

薔薇の健在を祈りつづけていた

いつのまにか憎しみは愛にかわった

 

僕は薔薇を見ているだけで精一杯だった

薔薇はより美しくなった

誰の目にも止まるようになった

僕は人の目をぬすみ

何度か夜中に手をのばした

 

薔薇は いばらより残酷であった

僕は幾度も傷つけられた

それでも僕の心は動かなかったのだ

薔薇は やさしい笑顔の中に鋭いとげを

隠しもっているのだ

それは美しさを守るためではなく

美しさそのもののもつ

本性なのだ

 

僕の血は薔薇より赤くしたたった

僕は自分の命を薔薇に捧げた

倒れ伏した僕に 薔薇は一枚の花びらも

投げかけてくれなかった

しかし 僕の思いはもはや

憎しみには戻れなかった



38.Mountain Climbing

 

僕がのぼるのは あの山だ

前人未踏の存在さえ知られていない

あの山だ

てっペンが星より高いところに

あるほどに大きいから

人間の目の中には入りきれぬのだ

 

何やら ずいぶん上までのぼった人もいたらしい

誰も戻ってこれなかったという

そりゃそうだ だからこそよいのだ

 

僕はこの地にロープの先をしっかり

結びつけてのぼっていく

戻るためじゃない 君が いつの日か

ついてきてくれることを信じてだ

二人でのぼれるときを祈ってだ

 

天空は空気がいいぞ

雲が下に見おろせるだろう

地球は何色をしているかな

たとえ これが愚行であったとしても

僕は後悔しないさ

ロープのもう一方の先が

あなたの手に握られていると思えばこそ

僕は安らかにのぼれるんだよ



39.自殺考<ともに生きて結ばれぬ場合>

 

君を殺して僕も死に 天国で結ばれようと

昔語りに考えてみたけど

天国に行きゃ それなりにいい男がいるし

その前に 行き先が別れちまいそうだ

 

君も殺さずに 僕も死なず結ばれるには

手間はかかるが 他の人間を皆殺して

二人っきりになりゃ いや

その前に君はまちがいなく死ぬだろうな

 

君を殺して僕しなずんば 僕は君のため

全くいないところで処されるだろう 

それよっか 君は殺さず僕だけ死ねば

君も喜ぶだろうし

やっぱり これしか なかろうな



40.別れのあと

 

あなたは自分の世界から

引きあげてくる

汗をふき人と楽しそうに笑っているけど

あなたの心がどんなに傷で

ズタズタになっているか

長年 その心を追ってきた

私にはわかる

 

あなたはそんな私の目に気づくと

昔のようなやさしさで

そっと目をそらした

別れという形によって 心が

分けられることはあるまいに

 

あなたは私にぽつりといった

私は飛ぶ 果てしなく

あなたのところに 翼休めるひまもない

あなたは 私のことを考える心を

私のところへ置き去りにしたまま出ていった

それが苦しいなら 取りにくればいいのに

あなたの翼はもう戻らない



41.自分の姿

 

僕は自分がいやになって

それでも その影を見た

足は とてつもなく長かった

僕は希望に瞳をうるおした

 

しかし そのあと

僕の目に入ったのは

なんて 長い胴であったことか



42.悲しみの夜

 

夜 静まり返って まっ暗で

生きとし生けるもの 声をひそめ

ヤスラカナル眠りを 貧ぼる

 

否 僕には聞こえる この甘たるい夜を

涙でしめらしている 人の嘆きか

星は輝く 白く輝く 夢見る人は知らない

 

でも 悲しい人の目に光がにじむ

涙をぬぐってごらんよ

朝まで泣いていてもいいけど

涙が乾いてしまっちゃ

悲しみは 心の底にしまわれるよ

誰もいない 夜だもの

君のために

あんなにたくさん星がかがやいている



43.忘却

 

大人になっちまったとき

無邪気な愛は

たんぽぽ 風のように

フワフワ 飛び散ったのか

 

愛だと気づく前から

ずっと愛してきた

君は一度も僕を

かえりみなかったけど

一途な愛を捧げてきた

 

君は天使だった 神だった

僕の全てだった

いつも僕は一人だったけど

心の中では君が笑っていた

 

君からつっぱねられたあとも

僕だけは君をはなさなかった

それほどの愛だったのに

今はもう

信じられないぐらいに

一かけらの思い出も残っていない

 

遠い遠い雲に呼びかける

愛にかけた僕の心よ

戻ってこい

 

君が去って

そして

君を思う心が去って

そして

僕自身も去っちまった



44.ま、どんな

 

僕は海が見たくなった

そこでテクテク テクテク歩いて

太陽の昇る方へ向かった

どれだけ歩いただろう

潮風は強く鼻につくけど

波の音が激しく耳をつんざくけど

 

どんなにどんなに歩いても

海は見えなかった

どんなにどんなに 走っても

どんなに

 

僕の頭の上をかもめがとんで

青い空に気をうばわれていた

僕はいつのまにか

大海をおよいでいた



45.再会

 

君は最初から僕には目もくれなかった

それでも僕は執拗なまでに愛しつづけた

報われぬ愛は僕を成長させた

天上の女神だった君を

幼子のように見えるほどに

そして

僕の愛は捧げられるものから

施されるものになり果てた

 

君は 古傷のように ときに

ひどく僕を悩ますことがある

しかし

それも実際は大したことがないのさ

 

僕の心があれほど愛に

情熱をかたむけられた

昔をなつかしんで うづくのさ

 

今日 君は 僕のそばにいる

それが 何になろう

失われたときは

二度とは戻らない

 

明日 君は僕を遠く離れる

それが 何になろう

すでに心 異郷にさすらえる

二人にしてみれば



46.現代人

 

僕らは温室に栽培された

冷たい風雪にもさらされず

害虫や病もよせつけず

暖かな愛の恩恵の中に成長した

 

太陽はいつも微笑んでいた

川のせせらぎが 呼んでいた

星が夜空に泣いていた

虫がすぐそばであえいでいた

 

そんなものをいいかげんにあしらって

僕らは 遠い異国の

お話しばかり聞いていた

 

誰よりも 喜びはあったけど

誰よりも 幸せではあったけど

何かしら欠けているものがあることに

気づくことはなかった

 

僕らは 不幸を知らなかった

骨の髄までしみいる悲しみも

胸のうち えぐる 苦しさも

心臓をもむような息苦しさも 怒りも

地球を串刺しにしたい やりきれなさも

 

僕らの顔にはしわがない

頭には白髪がない

何たることか 僕らは皆 同じ顔をしている



47.道

 

僕は舗道を歩いている

アスファルトの黒い固い道だ

どこまでも

ずっと伸びているもんだと思っている

横道にそれぬかぎり

安全と思っている

 

生まれたときから

僕はこの道を歩いているんだから

 

何の疑いもありゃしない

ビルの谷間をさっそうと歩き

からっ風もほこりも

こわいものなどない

 

されどこの道をはずれたところに

本当の世界はあけているので

いると 風がささやく

この道からみえる景色は

看版かも と雲がたぶらかす

この道は 十字架と空がうそふく

 

それにしても

僕はこの道にほおをつけ

この道をさえ 確かめたことはない

僕の世界は全て虚構の産物



48.巨大なる偽り

 

雲の切れ間から太陽の一筋の光が

蝶を舞いあがらせた

それを追いかけた僕は

キャベツ畑をこえ

あぜ道をゆき

川野ほとりを歩き

木々とともに呼吸をし

幻想の世界に遊んだ

 

幻想 そうなのだ

蝶が消えてしまったとき

足もとにいつもの黒く固い

道が伸びているのに

めまいをおぼえた

 

僕は 横から

鋼鉄の親しき友に

砕けとばされてしまった

やっと やっと 自由になれた



49.両親

 

この広い世界に私を愛する人

教えてみた

両手を両足を用意したのに

右手の指と人差し指

二本が曲がったあと

プツリと とだえた

 

私はひどく さびしくなった

人間って そんなものかと

 

そして こんどは

私の愛する人

教えてみた

一人二人、三人と調子よくいかぬように

もったいぶって 考えてみたら

 

一人もいなかった

私はひどく なさけなくなった

こんな私を愛してくれる

たった二人の人間が

とても ありがたく 見えた



50.モットー

 

幸福という名の不幸に

別れを告げ

不幸という名の幸福と

ともにいこうと

現実という虚像に

甘んじず

理想という実像に

足をつけていこうと

喜び、親しみといった 人の求めるものに

背をむけ

苦しみ、悲しみといった人の嫌がるものに

面をむけ

一歩ずつ歩んでいこうと思った



51.月夜に(Ⅰ)☆

 

月がブラックから切り出されて

ぶらさがっています

夜空の裏側は

あんなにも明るいものでしょうか

 

そういやあ

古びたナベぶたの穴ぼこに

もれくる光は

さびしくも笑っているでは

ありませんか

 

ところで 太陽は

元気にやっているのでしょうか

僕はこの頃やたら気がかりに

なりました

皆があまりにもっとも

というので

安心していたんですか

はたはた

幻想ではありませんか

そいつは

幸いあまりにまばゆいので

真偽のほどは

定かではありません

だいたい

どうでもいいことなのです

だから

平和なのです

 

僕だって

こうして

目を変てこな感染で

せっかくの月まで

見られなくなっては

もともこもありませんもの

 

ナベぶたを持ちあげる

ちょっとのすきに

大きな手が好意的に

熱い無節操な太陽を

自動温度調節の電機具に

変えたような

気がするのです



52.月夜に(Ⅱ)

 

月がブラックから

切り出されて

つり下がっています

 

夜空の裏側は

あんなにも

明るいのでしょうか

 

そういえば

古びたナベぶたの穴ぼこから

もれくる灯りは

さびしくも

笑っているではありませんか

 

今も太陽は天気にやっているのでしょうか

僕には遠い昔に思えるのです

皆が見ているもの

 

あれは、幻想ではありませんか

 

いつのまにか

すりかわってしまった

精功な太陽に

目を焼かれて

せっかくの月が

見られなくなっては

もともこもありませんもの

 

ナベぶたを持ちあげる

ちょっとのすきに

大きな手が

暖かい太陽を

精巧な電燈に

変えてしまったのかもしれません

幸いあまりにまばゆいので

真偽のほどはわかりません



53.月夜に(Ⅲ)

 

月がブラックから

切り出されて

つりさがっています

夜空の裏側は

あんなにも

明るいのでしょうか

 

そういえば

古ぼけたナベぶたの穴ぼこに

もれくる燈りは

さびしくも

笑っているではありませんか

 

今にひびが入って

パカンと

夜空は割れそうです

 

そこにゆらめき

うめくのは太陽でしょうか

光のまばゆさに

誰もがそう思うでしょう

皆が見ているもの

 

僕は遠い昔のように思えるのです

それは幻想ではありませんか

 

皆が見ているもの

あれは幻想ではありませんか

 

いつのまにか愛を忘れた

人工の太陽に目をやられて

せっかくの月がみれなくなっては

もともこもありませんもの



54.虚脱(月夜にⅣ)

 

月がブラックから

切り出されて

ぶらさがっています

 

夜空の裏側は

あんなにも

明るいのでしょうか

 

そういやあ

古びたナベぶたの

穴ぼこに

もれくる燈は

さびしくも笑っているでは

ありませんか

 

さてさて 太陽は

天気にやっておりますことやら

僕は 気分ゆううつ

 

あまりにもっともと

昼に生きている人が笑うので

かえって 幻想

僕 あやうくなりました

 

ナベぶたを持ちあげる

ちょっとのすきに

大きな手があくまで厚意的に

熱い無節操な太陽を

自動温度調節の電気具に

取り変えたとしたら…

 

幸いあまりにまばゆいので

真偽のほどは定かではありませんが

ちょっと調子がわるいみたいで

そんな気がしたので

(それとて)

だいたい どうでも いいことなのです

太陽を忘れるほど

平和なのです

 

僕とても

こうした目を変にやかれて

せっかくの月まで

見られなくなっては

もともこもありませんもの