史の詩集  Fuhito Fukushima

福島史(ふくしまふひと)の詩集です。

Vol.12-1

Vol.12

1.あなたの色

 

僕の心臓に

カラフルな色で 

美しい絵を描こう

 

晴れた日の透みきった色で

大きな空を

広い海を

にぎわいだ街を

活気にみちた人々を

 

だけど いつも不用意にでてくる

あの色 

どす暗く

不明瞭でつかみようもない

ぼんわりと広がり

絵を損ねる

 

心をこめた 彩色が憂いに沈む

あの色のために

永遠にぬぐいされぬ一滴

 

たぶん あの女だろう

不用意におとしていったのは

 

あなたの心に入って描いた絵は

美しかった 

あなた一色で

花園の女神が笑っていた

 

だけど もうよい

僕はへたでよい

自分の色で描きたい

 

あなたが去って

憂いだけが残った

わずかに一滴

なのに まだ

深く染みこんでいる

あの色に



2.祈り☆

 

私の涙が白い丹前に

うす紅色に染まりました

レモンの香ほりが天に昇って

小さな星粒になりました

 

絹のなめらかさがそっとおいた

私の薬指を切りました

ポツリとこぼれた鮮血は

あなたにはじかれました

 

美しいもの

冷たいもの

幼いものに

罪はないのです

温情です

人の純潔を汚すのは

 

あなたは北風の声

空の高いところをわずかに かき乱します

私は積雪に隠された大地

余韻のない鐘の響きが

たまらないのです

 

陽は はるかに遠いところにいるのです

いるのです いるのです いるのです

なればこそ 私は祈るのです!



3.凍心

 

あなたは何を考えている

白く閉ざされた 北の国で

雪の精も凍えるほどに

 

なぜ それほど無情でありえるの

あなたは 眼をあけている

でも 僕はいない

 

僕にはもう わかりすぎている

沈黙は意志表示でも 否定でもない

僕はいない

 

あなたは答えるだろう

別に

 

いつもこうだ またしてもこうだ

けっきょく 僕ばかりだ

悩んで悩んで のたうちまわるのは

 

お人よしさ

僕を見えぬ人の将来の身上をまで

気づかっている この僕は

 

僕は 怒りも忘れた

嘆くのも無駄と知った

 

あなたのつれなさは

あなたにしぜんなものだから

 

時代よ 穏やかであれ

あわてて流してしまった

花びらの 美しさを迫わないように

花にはどうでもよいことなのだから



4.根

 

どうしてこんなに

人が歓迎しない感情ばかりが

僕に根づいているのだろう

僕が呼びやったのだろうか

 

落ち込む僕を救うはずの君は

誰よりも強く 僕の足をひっぱっている

時が足踏みして いじわるする

 

朝は けじめ正しく来る

人も自然に合わせている

ところが悲しくも

それに反することしかできぬ

不器用な人間が ここにいる

人一倍の不幸がかぶさってくる

 

それに参って染まってしまうなら

平凡であることは のんきな分だけ

幸せなことかもしれない



5.恋心の親心

 

何もかも 一人前になったのに

ひたすら無邪気で わがままなだだっ子

私の恋心よ 

おまえはどうして

そんなにいつも駆けまわるのだ

動かずにいられないのだ

そして 私を苦しめるのか

 

私のいとしい子よ

おまえの育ちがよすぎるため

私の栄養はすべて おまえに吸いとられる

静まってほしいと願うだけ 無駄

世話を焼かせてくれる そんな今が

一番幸せかもしれない



6.火矢

 

天使よ 失礼じゃないか

不用意な僕のこの心に

いきなり油をそそぎ

火矢をうちこむなんて

 

いやはや 油はあったのです

熱もあがっていたのです

 

私は 矢を放つだけです

それも流れ矢です

あなたの体を通り抜ける時

火がついたのです



7.ルーツ

 

僕の心のずっと奥にある

この悲しみは何なのだろう

僕をはいでいったら

何も残っていなくて

悲しみだけが

漂っているのだろうか

 

僕の体は

悲しみに

つけられたのだろうか



8.気化

 

悲しみすぎると疲れた分だけ

心がどれだけか楽になります

頭を破裂させるほど

煮詰まっていた思いが

天上へ抜けていき

どうでもよくなってしまうのです

 

あなたに こうされたのは

もう 何度目のことでしょう

あなたは 何も知らないのですから

 

(愛されるものが愛する者に

罪をつくっているのでなく 罰しているのです

何ゆえかは God Know)

 

今は大河に時 場を遇々

時にして舞散った 二枚の花びら

流れのまかせるままになりましょう

 

(僕はあなたどころが

自分さえ 自由にできるようになった)



9.ただに・・・

 

草になりたい

葉になりたい

ボウボウと荒れた

原野の果てなく続く

落葉の悲しみさえ知らぬ

枯木林の片隅で

 

ただ いぶかしげな灰色の空と

渇ききった白い土と

同じところをまわっている風

 

太古におきざりにされた

無窮の大地で

やせた地にはいくばい

吹きつける風のなすがままに

身体をまかせ

 

太陽を星も知らずに

ただ 生きて

ただ 死にたい



10.時限爆弾

 

僕は喜びの中に爆弾をかかえて

その日を待つ

閉ざされた心がようやく溶け

あなたは私の前に 輝くだろう

ひときわ美しく 女らしくなって

 

けれども 僕の五臓

時にむしばまれ 秒針を刻まない

 

あなたは 僕の空を飛べるのだろうか

永遠に偶像化された愛は

裏切るだろう

 

その日が終わる

夕暮れ頃は

僕はきっと 寂しくなっている

 

今 以上に あなた以上に

わかっていることだ

そのときがいずれ訪れること

僕が生きているかぎり

あなたが生きているかぎり



11.虹

 

雨が上がったので

真っ白な画用紙を

一枚買ってきました

 

あなたの顔はうまく描けないかといって

いいと思っているところに

あなたが クレパスを持ってきてくれました

 

カーテンを開けてあなたは言いました

 

虹を架けましょう

あなたは赤 青 緑色を

私は黄 紫 桃色をとりだしました

 

おや 橙色がありません

あなたに手をそえて

空を青く青く塗りました



12.卒業

 

あなたに会った日から

今日までの私は

あなたに恥じない女性になろうと

それだけを願って生きていきました

 

そんな私にとうとう気づいてくれなかった

きっかけなら いくらもあったのに

私は あなたの前に来ると名前もいえず

ただ あなたの話に耳を傾けているだけ

 

あなたに打ち明けたいこと

抱えきれないほどあったのに

あなたのそばにいると いつも

どうでもよくなってしまうの

 

あなたは気づいてくれなかった

ただ いつも明るくはつらつしていて

あなたは幸せを満悦しているようだった

 

私だけを見つめてほしい

そんな贅沢なこと願ってきました

 

あなたの心はいつも透んでいてわからなかった

あなたはいつも大きな夢を描いていた

私はその夢の中に入りたいと願っていました

 

あなたは去っていく

「さようなら」ってそれだけですか

あなたの言葉は いつものように陽気でさわやか

だから残酷 でも憎めないのが悲しい

「さようなら」と小さな声で

やっと返した私の言葉は・・・

涙がつうっと 頬を伝わったとき

あなたの後ろ姿はもうかすれていました



13.最期

 

邪悪な戦いの荷い手が

城から かき消えた

平和なひととき

あなたの一挙一動が

僕の一日を塗りわける

 

一途の愛

何も要らない

姫であるかぎり

私は支える!

 

しかし 白馬の騎士団は 返ってこなかった

あなたは 悲しげなふうをして

僕らは目をぬぐった

 

暗雲 一転 城を覆い

雷鳴 轟き 城門を破った

 

おびえた姫は はじめて

僕を必要とした なぜなのー?

 

―あなたの戦士が 彼らを導いたのです

僕の体から したたる血が

あなたの手を赤く染めた

寄せた波は 城内をもみつぶせず

ようやくひいた

 

あなたのために 死ねる

あなたの横で 死ねる

それが僕の死なのか

それが僕の生だったのか

 

僕は報われた 命を代償に

あなたは悲しげなふうをして

僕の意識は遠のいていった



14.警護

 

僕は あなたの護衛兵

あなたをいつも 見守ってきた

僕はただの護衛兵 あなたが目を輝かし

見とれるのは 華やかな戦士たち

 

僕はあなたの護衛兵

一日中 あなたを見て立ち続ける

僕はただの護衛兵

あなたの戦士と争う気など起こりもしない

 

あなたが見つめる 白馬にサーベル

号令を発し 勇みゆく戦士よ

それは僕の幼かりし時よりのあこがれだったのに

宮廷にあなたを見るや否や 流れ去った

 

声高らかに 帰りくる戦士を

僕は迎える 槍を立て 敬礼し

白馬の騎士は 勝ち誇らしげに声をかける

「ごきげんうるわしゅう お姫様」

あなたは応える かぼそい白い手にハンカチ

僕にはみせない 笑顔をふりまいて

 

国のため―

休息もなく あなたの戦士は 侵略に

遠い戦地に赴いていく

僕は見つめる 僕の幼かりし夢の

さらに 遠く 馳せゆくのを

姫ゆえに―

 

そのあなたは 胸に手をあて

僕の頭ごしに 彼らの死を 惜しんでいた

彼らは名誉に死に 姫の心に納められた

僕はその姫を警護する



15.夜噺-五題

 

夜が更けて 闇が積もっていきます

赤く燃えているのは 何の火ですか

あれは わたしの 愛

 

あいしてくれるのに

あいせぬひとには

ありがとうと

あいをうけとめ

かなしそうな目を

とじてみせるの

心の中で

あやまりながら

 

月よ おまえは

わたしをなぐさめて くれるのか

月よ おまえには わるいが

わたしは おまえをみて

かえって 悲しくなる

何だか似ていて つつましげだから

 

この世に 話の種はつきないけれど

二人は 二人のことだけ

話していれば 十分だね



16.愛しています♪

 

愛しています 愛しています こんなにも

なのにあなたは 空を見ている

ともにいられぬひととき

とても耐えがたい私に

やさしいあなたは 黙っている

 

愛しています 愛しています だれよりも

だから あなたの心もよくわかる

あなたのめざす その世界に

私の場所のないことを

わがままな私は言いだせない

 

愛しています 愛しています いつまでも

だけどあなたはやさしすぎた

私の愛が 足をひっぱっているのは

とうの昔に気づいていたのに

さようならがどうしても言えなくて

 

愛しています 愛しています どこにいても

だからこそ あなたの空を飛んでもらいたい

一人になるのは死ぬよりつらいけど

見守ってくださるあなたに

告げます 涙流さず

私も大人になりました



17.恋のうんちく

 

なぜ恋愛詩が 

多いのかって

世にはこれほど

不可解なものは

ないからさ



18.十代の初老

 

夢の中に出てきたあなたは

Vネックのセーター白いスカート

その横に あの頃の僕がいた

 

身にあまるほどの 未来を語りあったね

あなたは 言葉少なげだったけど

僕をきらきらした眼で みつめていた

あの鳥のように 自由に生きたい

そんなことばかり 考えていた日々だった

 

都会はちっぽけな人間を

顧みることもなく

やがて うつろな目の大群に

合流した僕は

君の去るのを止める力も なかった

 

夢に酔いしれていたあのころ

恋しいほどに 心につきささる

僕の未来は 夢であふれていた

それがつきてしまったのか

あなたを思い出す ほどまでに

そしてもう 僕は過去をふりかえって 

生きているとは



19.美しい地獄

 

あまりに水が清らかで まわりの木々も美しく

小鳥たちもさえずっていたので

僕はおそるおそる 足を踏み入れてみた

 

魂のてっぺんまで 溶けてしまうほどに

やさしい水の精が 僕を一気に

引きずりこんだ

だけど あまりに澄んだ水は そのことを

僕に気づかせぬほど 巧妙だった

 

僕はずるずると沈んでいった

半ば 水の精にひきずられて

半ば 自分の恋する心で

 

体をかけめぐる 甘美な快感

心はずませる たぎる血の流れ

若さは未知なるものへの恐れを

知らなかった

僕は今だに水の中にいることを

知らなかった

 

そこは 魚たちにとっての水

あるいは 僕らにとっての空気ほど

ふしぜんなものがなかったので

気づきようのなかった

 

そして いつのまにか 僕は水の精の

とりこになっていたのだ

 

底のない愛

もがけばもがくほど 引きづりこまれる

だけどそれに捉えられたものは

逃れるすべを知らぬ

 

笑っているのは 水岸から

見ているものだけだ

もだえ苦しむ 愛の地獄

むくわれぬ 底なし地獄

それだからこそ 美しい湖



20.雑草に笑顔を

 

くずれてしまった時を追いかける

手を伸ばせば 君の肩をとらえられた

そんな毎日を

僕は黙って見過ごしてしまった

 

君の書いた短い手紙の数々

ああ 君は僕のために

わずかながらも 時間を割いてくれた

君の人生の ほんのわずかな寄り道の

雑草にもしがない 僕だった

 

君は思いもよらない

気まぐれに あるときほほえみかけた

そのところに 一本のしかない雑草が

それが自分に与えられたものと早とちりして

何年も何年もその微笑を 忘れられずに

毎日毎日思い出して たったそのひとときを

見つめて 生きているのを



21.日記から写真が・・・

 

古びた日記の裏表紙から

一枚の写真がでてきました

遠い昔の風景でした

そこに あなたは僕の横で微笑んでいました

 

あれは いつの日だったか

カメラを手にしたあなたの妹が

気まぐれで 写して送ってくれたものでした

 

あれから 何年過ぎたものやら

あなたはとっくの昔に

僕の心の人となってしまいました

 

たしかに こんな顔をしていたように思いますが

何だか少々 違うように思うのは

気のせいでしょうか

 

古びた 日記一冊全てが

あなたのことで埋められていた頃のことでした

あなたの思い出を 留めるものは

他に何もなかった

 

写真の中のあなたは ただの友達

ただ そこに 何年もいっしょにいたなんて

今さら考えると おかしなことでした

 

たった一人の人でした

僕が愛せた たった一人の人でした

気づかなかった僕が 愚かだったのです



22.すれ違い

 

男がはい上がってきたとき

女はそのところの顔に 

不幸の二文字を読みとった

女には 地獄へ行くというような

考えは思いもよらなかった

天国に飽きは幾分あったが 

離れる気もしなかった

しかも こんなみすぼらしい

見ず知らずの男と



23.煉獄

 

僕は君を愛するために 生まれた

君が僕に愛されるために 生まれたように

だけど 一つ手落ちがあった

僕は僕を愛するために 生まれなかった

僕が君に愛されるために 生まれなかったように

 

愛されぬ男と 愛せぬ女の出会いは

結局 すれ違いに終わるしかなかった

 

男は その胸にやわらかい肩を抱きしめながらも

はっきりと遠い世界を見つめていた

女は 男のりりしい顔を見つめながらも

決して心を開こうとはしなかった

 

男は 女を神の国に押し上げると

胸を十字に切って 悪魔の導きに魂を預けた

 

男は知っていた 自分は女と異なる世界に

生きなければならぬことを

だけど 一つ手落ちがあった

男は容易に忘れられなかった 女のことを

いかなることに紛れていようとも

 

時は幻影をぼかしながらも 肥大させた

地獄の色に染まった男は

天国へ這いあがろうと試みた

それは許されぬことだった

 

女は男が地獄へ行ったことは知っていた しかし

自分ゆえということは知らなかった だから

女は容易に男のことを忘れられた



24.「橋にて」ゆく川 ゆく人

 

街ゆく人は振り返らず 歩いていく

橋の上 流れる水面 見つめる私

何となく 君が立っていそうな気がして

 

振り返っても

どんより曇った空 かもめは飛ばない

あてもなく ただ一人

何を 待っているのか

 

待ち時間は 永遠と化し

君はもう この橋を渡るまい

思い出を拾い集めるのは 僕だけ

 

これで最後と思いながら

つい ここに来てしまう

冷たい風は吹き あなたの香りはない

 

つらくなるのはわかっているのに

川に流し切れぬほどの日々

思い出の中に戻りたくて

 

一言いい忘れた言葉 告げたくて

笑われた時は帰らない

何もかも あのころと同じなのに



25.溶雪

 

あなたの手のひらに

立ち寄った雪が溶けました

あなたの手のあたたかさに

清らかな冷たい雪が溶けました

あなたは春なのですな

明るいあたたかい日ざし

 

ずっと待ちこがれたいたんです

どんより曇った空も

凍てついた 大地も

雪化粧をはらった枯木が

微笑んでいます

 

地上を清めた 雪んこたちも

あなたの息吹きにうっとりと

身をくずしていきます

 

天使が舞って降りてきます

神の永遠をたたえて

無邪気なものですとも

地上はまだ 真っ白なのですから

 

やがて生あるものが動きだします

あなたの命令の下に

あなたの去ったあと

手におえぬほど慕われだすのを知っていても

あなたは雪を溶かすのです

 

そして 天使たちが嘆き悲しむころ

神の涙かともや 一年めぐりて

雪が戻ってくるのです

それは人々の涙の結晶なのです