史の詩集  Fuhito Fukushima

福島史(ふくしまふひと)の詩集です。

Vol.12-2

26.君は世界を意味づける「棒歌」

 

君に捧げよう この歌を

僕の全てを賭けて

君に告げるため

君に捧げよう この歌を

 

つまらぬ男だって

その胸に入り切れぬほどの

夢を持つことはあるさ

(神様は禁じてはないもの)

その夢の中に 君ほどの女を呼びこんでも

罪はないはずさ

(夢はそれと気づかぬ喜びに

ひたるほど それと気づいたとき

深い悲しみで罰するから)

 

僕らは飛びまわる

君の手をきつく握りしめて

僕は有頂天 何気ない世界の何もかもが

意味を持ち始める

 

君の瞳に吸いこまれると

黄金の輝きをしのいでしまう

 

王女の下僕は 我一人

思いのままに なさしめよ

我の心は汝に捧げたものなれば

 

太陽の燦然たる きらびやかさと

月の涙誘う しとやかさを

兼ねそろえた その顔に

微笑を浮かべておくれ

世のため 人のため そして 僕のため

あなたが消えて 世界の意味も消える日まで



27.血

 

長い年月が 僕の体内に君を溶けこませた

君はめぐる 血管の中に赤く燃えて

僕の血が 苦しいほどたぎる

すっかり 僕を支配しちまった

恐るべき 侵略者

 

僕の微妙な心を揺るがしつづけ

心身を破壊に導こうとする

頭の中までも いつも間にか 真っ白

本能-理性も 手を握り合い

 

自我は君の前に両手を上げ

プライドは砕け 君の忠実な下僕となり

いつしか 僕そのものに化しちまった

 

何にしろ 女の赤い血は 僕の命だ

男は若き女の 血を求め 夜通しさすらう

されど 僕の牙は 抜かれちまった

胸にたぎる 血を抑えるだけで精一杯だ

 

でも君の実体は あらわれぬ

僕が胸をナイフで切り刺して

僕が倒れたとき その胸からあふれた君は

僕の目の前に立ち 笑いあざけるだろうか

残酷なる 魔性よ



28.反流

 

河は流れる

僕らは 明日を待たない

上流へ上流へと 上がっていこう

そして 自分の手で明日をつかむんだ

ともに下っていくことはできないから

 

わずかな間の すれちがい

人生がそういうものだから

じっとしていても 時は流れる

けれど 流しておくのでなく

自分で流れにさかのぼれ

流れは激しく かいに力をいれねばならぬとも

 

はるか上流に 求める世界よ

老いさらばえて海に流れ

安らぐのは まだ早い

 

上流へ上流へ

果てしもなく

力尽きるまで

さかのぼれ

己の力だけを信じて



29.感謝

 

貴方は私の世界の中でこそ

生きるべきなのだ

私の世界の中では 貴方の何もかもが

数倍も美しく輝きを増す

私ほど 貴方を愛せるものはいないから

 

貴方に示せる僕のたった一つ

自慢できるもの

誰よりも貴方を

本当に貴方を

愛しているということ

 

それは貴方には 何ら価値のない

つまらぬことかも 知れないと

考えるのは つらいけど

たとえそうであっても 愛する権利は

貴方とて 奪えない ただ

認めてほしい 私の愛

許してほしい 私の愛

 

よしんば 他の人に心許すとも

私は何も言うまい いえまい

されど わかってほしい

覚えていてほしい

こんなにも 貴方を愛している

僕がいることを

それを心の片隅にとめていただける

だけで がまんできる男がいることを

 

何も思うまい 望むまい

心の中だけでも 貴方とともにいられる

そんな貴方と少しでもめぐりあえ

生を共にできた

その幸せだけを今は 感謝しよう



30.愛の宝石

 

あなたへの様々な思いから

思いを覆う 不要な いとしい

この不純物を除き

純粋な愛の結晶と化したい

 

それは100%の完全燃焼率

愛の力は人間の限界を破る

偉大な動力源

全生命をほとぼらせて

貴方をみがきあげる

輝く私の宝石よ

 

ひとカケラであろうとも

あなたは 太陽よりも

大きな光と熱を

私に与える

 

永遠のわが命の源よ

私を溶かすほどに燃えよ

そして 私をあなたの中に

融合せしめよ

 

何かしらのわけありて

分かれ出し魂を今こそ

完結せしめよ

 

あなたと私に

過去はなく 未来は知らず

より強く燃え続けよ

生命あるかぎり(とだえても)

灰と化するまで



31.大きな夢

 

僕の手には何もない

だけど僕には

いくつ手があっても

持ちきれぬものがある

 

はかなくて

ぼくぜんとして

つかみどころもないけど

大きな大きな夢

育てていくんだ 大切に

 

いつの日か きっと

この手で 実感できるときがくる

自分を信じて

何もないからこそ 自由にとべる

 

さあ 今 思い切って

地面を蹴るんだ

あの大空よりも広い 僕の夢

はるか かなたにあろうとも

どんなにものにしがたくとも

そうであれば あるほどに

僕は 翼に力をこめる

 

ああ いつの日か

若さまさりの夢だったと

大空に舞いおりて

懐かしむときがくるかもしれない

だけど夢 この手に この手に

勝ちとるよう

 

僕は ひたすら

今日を生きる



32.パッション

 

胸をえぐったナイフをとびかう

鮮血の色は

まぎれもなく 情熱――

あなたを愛していた私の心

ポトリポトリととりとめなく

あふれる 今も――

 

私の心は冷めきれなかった

奥深く おまえを

抑えこんでしまってから

私はいつも予感におびやかされていた

私の思いが 理性などとベールで

隠し通せるものかと~

 

やっぱり こうなった それを私は

あの日から知っていたような気がする

 

私の青春がしたたる 胸から

何と美しい 血であろうか

 

<あなたは あの日帰ってこなかった

そして 私も追いかけなかった>

 

けれど 私の心はあきらめなかった

体をひきさく激漏が快いほどに私を罰する―

この血一滴一滴が私の気持ち

 

あなたへの思慕は体中を巡りつづけた

一瞬(ひととき)眠りもなく

そして今 ときのまだけど

しぜんな私がここにいる

 

あなたはいない

でもあなたを思う

私が こんなにも広がっている

 

ああ・・!



33.聴いてくれ

 

僕の歌を聴いてくれ

君の耳には聞こえまい

僕の心を聴いてくれ

君の心で聞いてくれ



34.ヘブン

 

僕の手をつかんで

漏りの向こうまで駆けていこう

きれいな小川があって

青いリンドウが咲いている

僕が見つけた

すばらしい 花の国

誰にも 教えやしないけど

僕一人にはもったいなすぎる

 

そうだよ 君が必要なのさ

おいでよ おいで ためらわず

お日様に 笑われるよ

ポカポカの地に寝ころんで

はてしもない大空を

そっぽり二人の胸の中に

入れようよ

菜の花も 蝶も みつばちも

皆 恋をしているんだ

 

ああ 君がまぶしい

春風に踊る

すらりとした君の足

ふくよかな君の胸も

さらさらの君の髪も

君は両手を

天の伸ばし

僕を追いかける

ごらん

何もかも 僕らのためにある



35.平等

 

さまざまな輩が

上から圧迫を加える

時代は 我々には楽だった

敵の姿が見えていたし

それに抵抗できぬ悔しさはあっても

肉体的に過酷に苦しめられても

精神までは犯されなかった

 

歴史は 徐々に敵をとりのぞていった

我々は そいつらを足元に踏みつけ

平等を 自由を 勝ちとったかと思えた

 

ところが今 見えない敵が 見えない手で

我々を それこそ平等に

下の方からひっぱっている

我々は敵の姿さえ つかめぬ直感で

落ちていくのを感じていないから

なす術を知らない

精神から むしばんでいく

我々は もはや 理性も保てぬ



36.踊り続けよう

 

まわる まわるよ 今宵最後のワルツ

白くか細き君の手に

これまで生きてきた僕の過去を

そして 君と離れて生きていく僕の未来を

全て伝えよう

 

誰もが笑顔で無邪気を装っているから

僕らも楽しく踊ろうよ

1,2,3 1,2,3

呼吸がぴったりあうまでにかかった年月と

それを忘れてしまうまでの年月と

比べやするまい

 

君は永遠に僕の胸の中で息づく

自由の戦士よ なぜ 我らは飛ぶのか

愛する人を守るため 愛する人と離れてまで

悲しく呪われた 人間の性よ

敵を破る その標的の男にも 無事の生還を

一瞬たり忘れず願っている 人がいる

人間 邪悪なる死神よ

生という自然の大神に反逆する者よ

 

まわる まわるよ 今宵最後のワルツ

曲が止まろうと ホールが壊れようと

まわる まわるよ 誰も絶対止められぬ

このワルツ 僕の胸に あなたの胸に

あの人の かの人の

誰もの 胸に

夜明けも何もあるものか

力の限り 曲の聞こえる限り 踊りつづけるのだ

そして 倒れてしまおう 踊ったままに!



37.落陽

 

夕焼けのむこうに

夢を追いかけていた人が

また一人 今日の世界に

腰をおろし パイプの煙に

ぼやき 沈む太陽を見つめている

 

太陽の沈むのを待ちくたびれていた

ほどの 若い日々から

太陽の上るのに

ついていけなくなってしまうほど老いて

おいてけぼりされた日

 

ああ 大いなる魂も燃えたぎらせ

太古より お前は沈んでは上るのに

それについていけぬ人間の身の悲しさ

 

我身を焼きつくせ

おまえの持つ万分全ての一の熱と光で!

私は おまえの戻ってくるまでの

冷たい世界で 凍え固まりたくはない!



38.火種

 

腹の底にいつのことか

わずかに持ちこまれた火種が

くすぶりつづけ 抑えるほどに強くなって

爆発して身をこがすように熱く

体全身をほとぼらして

炎 そのものと化して

とどまることを知らない

自由奔放に何もかも焼き尽くし

意志の力によって命限りなく

 

形だけに化した人形は

肉体は灰になり

精神は残りえるか

殺すだと―偽りのベールをはぐだけだ

その下には虫けらほどの

良心もない

 

そしていつの火か 世界が灰と化したとき

炎はおだやかにおさまるだろう

私も死するのだ

(私の人生は結局 人(文明)をむさぼることだったのか)

そして いかなる 知性をもったもの

その文明を それを 皆無せしめたものの

正体をつかめぬだろう



39.サンタ

 

サンタはいないんだと思ったときから

サンタはいなくなった

夢は夢でしかないんだと思ったときから

夢は みられなくなった

こうして人々は幸せの芽を一つ一つ

大人になる軍資金とでも思って積んでいく

 

答えを見つけるためでなく

疑問を残さないために

 

なぜかと考えるのがめんどうなあまり

なぜと問いかけることも忘れる

 

世の中はもともと味気ないものだったのかもしれない

しかし それが無限と輝いたこともあったじゃないか

たとえ それが間違っていたとしても

それに気づくのは りこうじゃない

偽りの方がずっと 価値のあることもある

 

天才ほどの不幸な人はいず

バカほど幸福な人はいない

世の中は 自分の思い通りの姿として あるからだ

もし つまらぬものと思うなら

その思い方を改めたらいい

すてきだと思う人に すてきに見えるものだから



40.酔ひ心

 

君の面影 肴にして

一人わびしくつぐ酒は

酔うにも酔えず

涙のみぞ酒面に踊る

盃にゆれる君のまなざしは

笑いこぼれて切なげで

みつめためらうそのうちに

香りも失せし冷たい仲

 

うずきおさまりし 痛みを

腹しんまでしみ通す

この酒 冷や酒のうるわしさよ

(苦く苦く)下に残るあと味のわるさとて

今はもはや離して生きれぬわびしさに

たぎる たぎるは恋心

はや我は老いさるばれて

足とて我意のごとくならぬとも

千里を遠しとせずは

ひとえ この恋心のみ

 

僕らは愚かな大人より

ずっと共通のものを持っている

理解もしやすい

僕らは 世界の青年

世界の子供たちだ

ならば 世界のために尽くそう

我が愛すべき地球のために

我が愛すべき人類のために



41.人の思い

 

魔法使いは 一軒の家で

体の不自由な年寄りになりすまして見ていた

一年目 人々は豊かになった

なぜって それが幸福だと人々が思っていたからさ

 

自分の家を新しく いろんなものを買い集め

みすぼらしい 魔法使いの家を煙たく思って

ひまつぶしにいろんないやがらせをした

地上一面真っ黒な花となったのだ

魔法使いは怒った そして

この腐敗した土に見切りをつけた

 

それで次の年は

不幸の種ばかりを

まいてしまった

もはや 世界もおわりよ

 

雷鳴がとどろき 火山が爆発し 地が揺らいだ

そして人々は 恐れと不安の中で貧しく飢えた

なぜって それが不幸だと人々は思っていたからさ

されど人々はくじけなかった あらゆる虚栄は

排除され 生きるために 動きはじめ 協力しあった

魔法使いのところに何人かの者が世話をしにきた

 

皆は 疲れ果てていたけど

明るく 生き生きしていた

ドアの外に魔法使いは見た

一面 白い花が咲いているのを

 

(人々が幸福と思っているほど不幸なことはなく

不幸とおもっているほど幸福なことはないのだ)

魔法使いはこの地上におこったことがわからなかった

これいかなる魔法なのか

やさしく取り戻して二度と

幸せの種などまくまいと思った



42.育てる

 

魔法使いがホウキに乗って 夜空を飛んでいく

あまりに早いので 気づいた人々は

新しい彗星かしらと 首をかしげている

 

その間に魔法使いは国から国へ

魔法の種をまき散らす

この世の中の不思議なことを

気まぐれに起こすのが楽しくて

魔法使いは今年は考えた

なるだけ幸福の種をたくさんまいているのに

この土壌はすこぶる幸福にしているのか

 

黒い花ばかりさく

幸せは芽ばえたときに 誰もが

つんでしまうのだろうか

誰もが欲しいものだからこそ 誰もが

大切に育てねばならぬというのに

 

魔法使いは 幸せの種ばかりを

今年はまくことにしてみた



43.あるクリスマスのシャンソン

 

今宵クリスマス

私は一人 お腹をすかして

肩をつぼめて街をあるく店は早 閉まり 

からっぽのポケットに手を入れ

街を歩く

シャンソンにしばし立ち止まり

カウンターの男がじろりと見たので

街を歩く

 

寒さだけを持ち帰って

ふとんを頭からかぶり

一人見のさびしさに

やりきれずにいるときに

ふと目をついてでるのは

ふと夢の世界へつれていってくれるのは

 

あ シャンソン

街で聞いたシャンソン

ふるさとで聞いたシャンソン

生まれてこの方聞いてきたシャンソン

クリスマスの夜は更けて

ともすロウソク一本ない

この私に たった一つ かざれるもの

 

あ シャンソン

街で聞いたシャンソン

ふるさとで聞いたシャンソン

生まれてこの方聞いてきたシャンソン



44.ピエロの昇天☆

 

ピエロは疲れはれた体を横たえ

誰もいぬ舞台うらで

穏やかな死神の足音に耳をすましていた

そして とぎれとぎれ流れくる音楽にプリンセスの

舞台を眼前で見るよりも正確に

思い浮かべていた

(僕の声はとうとう貴方に届かなかった)

 

プリンセスは舞台の上で

踊っていた いつものように

華やかに 美麗しく

端役が一人欠けていることなど

全く気付かず(たとえ気づいていても

気にかけやしなかったろうが)

 

しかし プリンセスは自分が満足いくだけの

舞台を演じているのに

大テントの中が妙に冷めているのを

直感的に感じていた

プリンセスはさえぬ顔で

引き上げてきた

上張りをいすに投げ

かけるといつもどうり 寝入ってしまった

 

ふと耳の中を風がかすめ

プリンセスは目を醒ましました

体に震えがきて

思わず量肩に手をやった

それは冷たく細いすべすべした肌身だった



45.Snow green

 

雪は情を持てぬゆえけ高い

いっさいの情をうけつけず

自ら情を生じるものなら

それを溶かしてしまうという

 

そんな雪を愛してしまった人間は

どうすればよいのか

愛は必ずやいかにかたくななる心をも

開かせよう

されど 雪

ぬしは 暖かい手でつつむと

身を滅ぼしてしまう 雪

 

僕はだまって遠くから見ているしかない

見られなくなるより

ずっとよい

されど 雪

春の日は こんなに遠慮していく僕からぬしを

もぎとってしまう

その悲しみに どうしてたえられよう

ぬれた地面に僕の涙をぬしに

雪 僕はぬしの美しすぎる性質を憎む

同じ星のもと生まれえなかったことを

 

遠くでみている つかの間の 清らかな このとき

奪いたまふな 奪いたまふな