史の詩集  Fuhito Fukushima

福島史(ふくしまふひと)の詩集です。

Vol.12-3

46.雪を愛する

 

深く深く雪に閉ざされた冬

一人悲しく外を見る

雪は やむことを知らず

僕の心に積もっていく

ああ あの暖かい日だまりは

木の葉の中に舞い散ったのか

北風がからっぽの腹を吹く

 

語りかける人もいず

荒れ狂う海 安らぎを知らず

語りかけてくれる人もいず

星の輝く夜 永遠に帰らず

 

頭のアルバムから 友を懐かしみ

語りかける その面影すらなし

愛する人 愛した人 愛せた人

かぼそき炎にゆらめく

ああ 

 

僕は雪を愛する

何の暖かい感情も持たず 

ひたすら シンシンと

僕は雪の白さを愛する

僕は雪の固さを愛する

僕は雪の清さを愛する

僕は雪のはかなさを愛する



47.君の美しさは固く凍りついた心

 

君の微笑みはさびしさまじりの作り笑い

僕にはわかる もう何年も君を見てきたが

僕の手であたためてきたのに

 

君の心は 今だに溶けない

君は笑う ほがらかに何の屈折もなく

僕にはわかる 君にいやというほど教えられた

 

君の心に少しでも入りこもうとすると

君は固くロックしてしまう

そして 君を何もしらぬと

笑ってごまかしているのだ

 

僕の目を見なよ

君は 誰にでも そんなに冷たいのかい

本当は 陽気で おきやんな娘だ

ボクにはよくわかる 君のかげとなってみてきた

心のたずるをゆるめなよ

心の底から笑ってごらん

こんな楽しい人生じゃないか

こんな すてきな君じゃないか

 

僕は何も求めない

誰をも 愛せば それでいい

そうしたら その中に僕も含まれよう

それで 僕は大満足

君の幸せ 僕の幸せ



48.つかれちまった

 

つかれているのに眠れない

君を追いかけ追いかけ

夜道をさすらい

帰ってきたら 一人ぼっち

眠れない

本当に本当につかれちまった

その頭を君が先のとがった

くつで踊りはねている

君に君に つかれちまった

何もかも投げ出して

ひたすら 君を思えたとき

まだまだ よかった

恋に恋に つかれちまった

つかれすぎたら 眠れない

頭がわれそうだ

僕の心は 晴れた日を忘れちまった

 

星が見えないのは曇っているせいだろう

君を追っているままに僕は自分を失った

ああ この愚かなる心

もはや 愛してもいない人を

今だにおいつづけ

今夜も 白けちまうまで

苦しめる



49.反戦歌(1)

 

世界の青年よ子供たちよ

僕らは戦争を知らないけど

それが どんなに悪いことか

いかなる名においても

正義といえぬものかを 知っている

人を殺すこと 人の世で最も悪いこと

大人たちは 苦しい経験を生かす術を知らない

避ける方向を180℃まちがっている

そして 我らに過ちを又もや

繰り返させようとしている

 

何度も 地獄を見ながら 今だに

戦争という文字も 過去のものとして葬られぬ

愚かな大人たち

戦争と知らぬ僕たちは 彼らに習ってはだめだ

僕たちは もっと広い目をもって

世界の次世代の者

同士で信じあおう

そして 愚かな大人が退いたあと

戦争につかうようなものを焼却しちまおう

世界が手をつなぐ時代を切り開くのだ

誰もこのすばらしい世界を母国を

滅ぼしたくないはずだ

 

世界を滅ぼす 愚かな大人どもとなるな

世界を救う 英雄となれ

はや母国を案じるより 人類を案じよ

戦争を知らぬ世代よ

純真な大儀なる心を忘れるな

愛と信頼の上に世界が結ばれる日まで

その心を持ちつづけよ

主義も考え方も違うけど 人を愛すること

人を殺さぬことにおいて 何の違いがあろうか



50.反戦歌(2)

 

戦いが終わったとき 誰もかも誓ったはずだ

二度と謝りは犯さないと

歴史は教訓を残すのに

人間は 嫌なことは すぐ忘れてしまう

そして 人間にとって最も大切なもの―

愛を力で踏みにじってしまう

一人一人は分かち合える人間なのに

愛を代償に利を得ようとする

愚かな野獣と化する人間よ

一人一人は 愛しあえる人間なのに

恋人を愛するように

世界の人と愛しあおう

 

悲しいことじゃないか 文明はこんなに

発達したのに 動物にも劣る

身勝手な愛 人間同士が憎みあい

殺しあうなんて

人間同士で信頼がもてないなんて

武力のむなしさを何千年かけて学んだのか

人間の人間たる知恵とは何だったのか

 

武器を捨てよう 力を捨てよう

そんなものにたよらなくても

人間はすばらしい心があるじゃないか

もう一度信じあおう 歴史はくりかえすものだと

人間を疑わず 最初から やりなおそう

仲間が信じあえないなんて さびしすぎる世界を

つくらないよう そして信じあい裏切らないよう

原点から 人間として謝りを正そう



51.反戦歌(3)

 

悲しみも苦しみも 全て歌に込めて

ちりぢりに巻きちらすんだ

聴いている人の胸をなりひびかせ

己の体をばねと化し

 

時代は緊張を高めていく

墜落から脱出の好機だ

しかし ブレーキを忘れるな

時代は動かずにいられない

平和―

国を愛する

人を愛する

どちらかをとらねばならぬとしたら――

個人個人が主体を持って

全世界の

良識を働かせねばならぬ

戦争ごっこの好きな愚かな政治家と

そのブレーンを

我々の愛する人とともに撲滅せねばならぬ

敵は 国でも人でもない

わが身の中のさびにある

すこやかに すこやかに

誰もが世界を覧視し

歴史に参加しなければいけない



52.恋の矢

 

君の冷たさで氷をつくって

熱にうかれた僕の額にのせよう

きっと 沸とうしてしまうさ

全く回復の見込みのない恋患い

治せる医者は君だけさ

むろん君が現れたとき 僕の心臓が

胸から踊りださなければのことだけどね

しばらくは平静らしい

 

恋の矢は 君を見た瞬間に致命傷とあいなり

そこから病原菌が一夜のうちに僕を占領した

僕が何ゆえ ここに倒れているか 誰が知ろう

僕の頭の中は君の

僕の目の中は君の赤いドレスが

僕の耳の中には君の微笑みが

僕の鼻の中には君の香水が かおりが

 

僕の遺言は何通も君のもとへ飛んだのに

君は今日も光を満喫し 安らかに眠っている

 

通じよ通じよ 僕の真心 偽りなく我が

天使の冷めし心をたぎらせよ

通じよ通じよ 僕の熱情 天まで通じ 雷鳴とどろき

天使の安らかなる心を乱せよ



53.しかし また 誰かを愛していた

 

僕は明日のことなど考えなかった

僕は昨日のことなど考えなかった

僕はいつも今日を生きていた

 

若さは 愛することだけを置き去りに 僕を去った

愛することは 振られることだけをおいて 僕を去った

愛する人は 何も残さず僕を去った

 

そして 気づいて見たら 僕は一人

街の中を歩いていた

誰も僕の方に微笑みかける人はいなかった

 

僕の 愛はいったい何だったのだろう

僕が愛していたのは いったい 何だったのだろう

あい? 何ゆえ愛 滅びの愛?

 

愛が消えたとき 僕は 街の中に倒れた

ああ 愛 僕 そのものだったんだ

 

僕は明日のことなど考えなかった

僕は昨日のことなど考えなかった

僕は 今日に倒れたのだ



54.僕はいつも誰かを愛していた

 

主に愛した人は数人ぐらいどけど

そのすきまも 何やらかんやら うまっていた

僕はいつも誰かにふられていた

主にふれらた人は数人ぐらいだけど

そのすきまも何やらかんやら すげなくされていた

僕は 昔の人を思いだすこともなかった

僕は新たなる人を壊したことも なかった

僕はいつも誰かを愛していた

 

そんな中に僕を愛をしてくれた人がいたか 知らない

僕の愛のわずらわしさに誰もが閉口した

そして その人なりのやり方で別れていった

僕はただ せい一杯 愛しただけなのに―

涙の中でもう二度と人など・・との誓いは

涙がかわかぬうちに現れた人に たやすく破られるのだ

女の調子はよいのは最初だけだ

それでも 僕は愛していた 僕の目の前の人を

 

僕は愛することに夢中で相手のことなど考えなかった

僕は愛する人より 愛することを 愛していたのか

女には 愛を惜しみ分けるのがよいとて

気づいてみたら 僕は全てをかけて 愛していた

そして まちがいなく ふられていた



55.風船

 

色とりどりの風船が肩をよせて話していた

僕らは誰に買われるのだろう――

小さな男の子は 乱暴だ 女の子がいいな

小さな女の子はあきっぽい 男の子がいいよ

大きな家がいいな おもいきりはねまわれる

小さな家がいいな いつも遊んでもらえる

 

そんな中にたった一個だけいびつな形なため

仲間に入れず もの思いにふけっている

風船がありました

 

―僕は なんで風船なんだろう…

―風船やっているしか能が無い以上

風船でいつづけるしかないが…

青い空をどこまでも飛べたらどんなに

気持ちがよいだろう

 

この売れない風船の思いは仲間たちが

入れ変りするうちに ますます 強くなりました

か細そうな糸は なかなか自由を許してくれなかったのですが 

古くなったせいでしょうか

ブツリと切れました

 

今だ―

風船は高く高く皆の視線を初めて

一身に集め 飛んでいきました

―バカなことはやめなよ 戻ってこい―

そんな声が小さく小さくなっていきました



56.ミレーとエリー

 

街に同じ日に生まれた二人の娘がいた

一人は 街一番の大富豪の娘ミレー

もう一人は 街かどの花やの娘エリー

器量は けっこう二人とも よかったけれど

街の男たちは

皆 ミレーに夢中だった

夜毎にもよおされる舞踏会に

男たちは  日夜働くエリーの手からうけとった花を

ミレーに捧げるのだった

 

ミレーは誰からも愛された

けれど 自分を大切にするあまり 

けっして 微笑を返したりできなかった

エリーは誰をも愛した

花一本一本に微笑をこめ

大事にされるよう願って売るのだった

 

男たちは そんなエリーの前を

逆さにぶらさげた 花よりもしおれて

引き返してくるのだった

そして エリーに言うのだ

もっときれいな花を もっと高価な花を

ミレーの目にとまる花を

エリーは答える

ありません 花はどれも美しいのです

手に入りやすいのが 安く

手に入りにくいのが 高いだけです

誰もが エリーの前を 素通りした

 

店先の彩りが何度か変わった

 

ミレーは二十歳のお祝いに

街中の人々が屋敷に招待された

ミレーの望むナイトは現れなかった

そして 街の花屋から

もっとも きれいな花が届けられた

今こそ 男たちは気づいたのだった

エリーの美しさに

 

エリーのあとを 男たちは街中ねり歩いた

エリーは 唱った

愛することを 愛することを

何よりも大切なことを 何よりも尊いことを

相手がどう思おうたっていいじゃありませんか

愛せることが尊いのです

 

エリーは花を配った

一人一人の男に女に

その最 後尾に ミレーが並んでいた

エリーの渡した花に 初めてミレーは微笑んだ

街に同じ日に生まれた 二人の娘がいた

二人の娘は同じ日に 二十歳になった(のだ)