史の詩集  Fuhito Fukushima

福島史(ふくしまふひと)の詩集です。

Vol.14−1

詩Vol.14



1.瞳に写らない!

 

目が口ほどにものをいうなら

なぜあなたはわかってくれない

 

僕が穴のあくほど 君を見ても

あなたの瞳に 僕はゆれて 定まらない

 

この僕の目は偽りなのか ガラス玉か

そうなら うれしいけど

 

あなたの瞳にあふれた涙が 僕をぬぐいさる

そして あなたは瞳を閉じる

 

わかっているのです

わかっているのです

 

これだけはどうしようもない

キューピットの未熟な腕前を呪うだけ



2.お迎え ☆

 

母が迎えに来

父が迎えに来

友人が迎えに来

恋人が迎えに来

僕は人生を案内された

 

あれこれ半ば近くにきたのだろうか

なんだか先が見えちまって

僕は座り込んだ

 

父が去りゆき

母が去りゆき

友人が去りゆき

恋人が去りゆき

 

僕はようやく 一人になれた

ずいぶんきて 戻りようなく

僕は天を仰いだ

 

そうだ! 迎えに行こう

 

太陽はカンカンになり

月はシーンとし

空は青ざめ

星はまばたきし

 

そうしているうちに

死神が迎えに来た



3.イスとりゲーム ☆

 

最初 イスをとれなかったら

円の外に出て 

見ていなければいけません

そのあとのゲームは 

最後まで

自分のいないところで

まわっていく

 

疎外されてゆく

仲間が増えていく

他人のなりゆきに

目を注ぐだけ

 

一人落ち 二人落ち

それを喜ぶよ 僕たちは

 

とられちまったのでも

とれなかったのでもない

 

とらなかった人は

いったい そこに最初から

そう生まれついていたのだろうか

 

イスをそろえるための数として

数えられ しかも 自分のイスは

最初から用意されなかった

 

座ったものは

一瞬の勝利を味わう

間もなく

またそこを追われ まわりだす

 

音楽が始まり 突然に止む

それに支配されている 人間たち

それを知りつつも 興じることで

人間的に生きる 悲しき性

 

自分を最後まで 見つけられずに

駆けまわり続ける 勝者たち

最後にイスをとれたとしても

それは自分のものじゃない



4.屋根裏部屋

 

屋根裏部屋でのまどろみは

からっぽの酒瓶 欠けた茶碗

ホコリをたてて ころげていきます

 

大きく深呼吸すると 満ち足りた心

どこかでみた 面影をかすめて

どこまでいくんでしょうか

 

あらら・・・転げているのは

黄色い帽子 バチ

木琴 運動会の赤いタスキ

 

吹かれちまって 吹かれちまって

空へ上がっていくのは 何でしょうね

太陽がまぶしくなかったんでしょうか

 

昼寝を抜け出して

駆けまわりたかったんで

雨の日が 嫌で嫌で

びしょぬれになりたかったんで

水溜りでは まぎれもなく

王者だった人です

 

吹かれちまって 吹かれちまって

空へ上がっていくのは 何でしょうね



5.冬の歴史

 

薪が燃え尽きてしまうのを 見たくなかった

僕は家を後にした

雪に閉ざされた径を この両足で

切り開いていく

 

森林を切り倒してきた人間は

愚かにも ガラス張りでコンクリート

何の役にも立たぬ

ブロック林をつくりあげた

 

野獣を飼いならせなかった人間は

それを殺し ペットを育てあげた



6.君の名

 

ああ 祈りにも似て 君の名を

昼夜 幾度となく唱えた 苦しき

月日は去り 願いのごとく

君を忘れられしは 今

 

人はこれを成長というか

否 平穏なる余生

我が情熱 燃えざる日は疎ましや

 

かつて君を思うて 明け暮れたもう

あのころの我が情熱を 懐かしく思う

我 今だ 二十歳なり

 

人生 花開きゆく 若さなり

されど精神 すでに甚だ老い

大切なものを 忘れ去りゆく

 

早や余生のごとく あの日々を思うだけ

君 もう 我が胸に 帰らずや

我 もう 我が心を 離れずや

 

いとおしい人 今はその名も呼ばず



7.カナリア

 

我が内なる 恋というものやらが

貴方に歩みよって

長話をしていたのかと思っていたら

飛んだ思い違い

 

貴方の外なる恋という魔物が

僕に歩みよって 軽口を叩いていった

 

僕はあなたの歌を忘れたのでなく

あなたへの言葉の一つが歌だった

歌えないカナリアは死んだ方が幸せだろう

だから 僕は生きているのだ



8.愛の死

 

一人の女性の中に 生きていた頃

僕は満たされぬ思いで

二人分の荷物をしょっていた

貴方は知らぬ 単なる僕の独りよがり

 

その僕を支えたのは 報われるという思いでなく

貴方がこの世に生きているという

ただ 偶然の存在への感謝であった

 

貴方は絶対であった

唯一かけがえのない 存在であった

そして 僕の愛も同様だった

 

貴方が去ったのは あまりにしぜんだったから

僕は ただ笑っていた

しかし 愛が去った これは許せぬことだった

僕が死んだに等しいのだから



9.コイン

 

はじけたコインが舞うのを追っていた

貴方の瞳は 僕のこぶしの上にのったか

勝負はつかなかった

コインは床を転がり 視界から消えた

 

貴方は去っていった

それは理解の終焉

 

パイプの煙が青白く 貴方のいた空間を埋め

時の向こうに薄れていく

すべてが燃え尽きたが

鼻につく匂いはなかなか消えなかった

 

それからの僕は貴方の魂を見つめることで

天と地の間にぶら下がっている



10.花

 

美しく咲いた花は

よそ目にみていればよいのか

摘み取ってしまえばよいのか

 

飾られた花は 美として 存在する

美を失せるやいなや 枯れ朽ちるけど

ただ 咲いた花も 美として 存在する

遠目にときたま見るだけだから



11.日の出

 

夜の裾を照れがちに

顔を洗ったばかりの

太陽がめくって

今日が始まる



12.女と少女

 

彼女は女だった

それが誤解の始まり

一見しなやかな身体に

ひきしまった強さがあるのは

少女の誇りだったか

今は知る由もない



13.賭け

 

ダイヤのセブンの上に

今まで生きてきた年月を賭け

カードを引いた

 

五十二分の一 何という確率か

一枚! 僕の過去は投げ出された

テーブルの上に 悪魔と天使が

品を定め始めた

 

素裸の僕は気恥ずかしい思いで

見つめていた 僕の過去

 

こうなってみりゃ どれもこれも

手放すにあまりにもったいないけど

僕は今日から身軽に生きるのだ

 

それが望みだったのではないか

僕を今まで縛ってきたものすべてが

もう消えうせる

 

僕はどうなるのだろう

賭けの成立した時点で 時間はとぎれた

僕はすでに新たなる生を生きている

 

天使が席を立った

「ろくなものはない」

そりゃそうだ 僕の過去など

腐った悪業だらけ

メッキのはげた くず鉄さ

 

僕は僕の戻ってきた過去をいとおしん

悪魔が言った

「今度は君の未来を賭けないかね」



14.飛べ

 

なんて美しいんだ 君は

若さにあふれて

花の間を舞っている

青い空を我がもの顔に

 

羽を休めるでないよ

土のあたたかさに

懐かしみを覚えても

過去に戻るな

飛んでいればいいんだ

 

高く 高く

雲の合間を 君は飛ぶ

飛ぶために生まれてきたのさ

 

若さの尽きるまで

羽ばたき続けるのさ

不安と迷いの中

孤独な飛翔をー

 

羽を休めるでないよ

雨も風も君のために

君に力を与える

日は輝いている

どんなときでも

君が飛んでいるときなら

 

空は広いさ 君がきわめられぬほど

そんなすばらしくも 大きな世界に

君は遠慮なく 羽ばたけばよい

君が恐れるのは 君の甘えだけ

 

高く 高く 大きく 大きく

飛べ!舞え!うたえ!



15.遠い日々

 

僕は歌う 君に語りかける

愛を夢を情熱を

 

同じ星の下に生まれながら

城の中に閉じこもった姫のように

誰の目も避け 人をも愛さず

思うがままに 生きてきた君に

 

書きっぱなしの日記帳

開いてみれば 遠い日々が蘇る

 

あなたがいて 僕がいて

何もなくて すべてがあった

言葉のない詩が 二人の間を奏で

打算のない夢が行き交った

驚くほどの情熱家だった僕

 

それを受けとるのに あまりに幼かった君

時を待てなかった若さが 二人を隔てた

 

捨て切れなかった手紙

忘れ切れなかった 君

今は遠い日々

 

あなたがいなくなって 僕も去り

何でもあるけど すべてはない

もう それほど若くない と思うと

たまらず さびしくなる



16.決意

 

僕はもはや 悩むまい 逃げまい 振り向くまい

どんなに苦しみを早く乗り越えようと考えたって

何もならないなら一層 その苦しみの中に

どっぷりつかって いつまでも のたれまわってやろう

 

人生 たかだか数十年 若さを失いたくなければ

苦しみを逃れようとするな

その中にいるかぎり 僕らは確実に伸び

確実に生きているのだから

 

希望ばかりが高く そこに到達する歩みを忘れるな

星は輝いている それは 自分のためじゃないけど

星の光は何年とかかって我々に届く

星に辿りつけるのは それだけ歩んだ者だけ

でも 誰にでも機会は与えられている

自分で捨てないかぎり

 

素質とか 才能とか 口にするな

すべては努力が決める

早く咲けばよいというものでない

大きく咲くこと だからこそ 辛抱すること

 

ならば今日からは 明るく生きよう

何ともないふりをして 苦しみをかみしめ

表情で弁護するな 陰で苦しめ

他人には他人の生き方がある

僕は僕自身が最高と思う生き方をする

それだけだ

 

今夜はもう休もう 明日のために



17.鬼ごっこ

 

ただ 林を吹きすさび 風の奏でる音色に

耳を傾け ぽっかり広がった空を見ていよう

 

君はいつも無表情だけね

冷ややかな美しさが 僕を捉える

愛想よくなんか する必要などない

心のままにすましていればいい

そういう人だ あなたは

 

あなたを理解するのに 費やした年月が

僕のすべてだった

 

そして 何もかもわかり始めたとき

そのことが あなたを去らせた

せめてもの慰めは 僕がわからぬうちに

あなたが去ったこと 

でも僕は苦しんだ

 

海岸線をあなたは逃げ 僕は追い駆ける

決して捕えやしない 暗黙の約束

あなたが疲れて休んでいる間も

僕は無駄に走りまわった

 

そして 僕が疲れ動けなくなると

あなたは近寄ってくるのだった

限りのない 鬼ごっこ



18.不毛

 

僕らはお互いに知っていた

愛情や情けがどんなに不純であるか

お互いを尊重することは

自分を強くするから 

交えた剣が命取り

戦いは人間をつくり 

愛を壊した

踏み荒らした 

不毛の地で

僕らは花を

咲かせようと

祈った 

だけだった



19.唄うたい

 

すてきな人に出会った ひと目で見抜けなかった

そのやさしさ 僕の罪 誰にだって好みはあるもんだ

それを超えられぬ若さの悲しみ

 

あなたの優しさ 年月が僕に語りかける

人として生まれてきて 人として生きる

生きることの難しさに 気づいても

人として 生きられぬわけじゃない

 

愛は一時のすきまもなく ささやき続ける

それしか知らぬ 僕は気づかなかった

悲しくうちしおかれたときに

あたたかく包んでくれる人がいることを

 

ただ その人がそこにいるだけで

その人が この世に生きているだけで

どれほどの支えになっていただろう

それを気づかせぬほどの大きな存在

 

あなたは今も唱っているのでしょうか

決して大きくはない 自分の世界

それを分かちあって

あなたはますます 大きくなっていく

 

あなたが語りかけるのは 黙っているとき

あなたが聞いてくれるのは さりげない一言

あなたが冷めているのは 内に秘めたあまりの情熱

あなたが夢みるのは 澄んだ瞳を休めるため

あなたが生きているのは 



20.愚痴

 

そうですか まだ若いのですか

僕ですか? とっくの昔に死んだはずですよ

二十歳ですよ もう生きすぎましたよ

無邪気な十年のあとに

無意味な十年はいらなかったのです

 

何もかも 知っちまいましたよ

知は美を壊すのですね

東京の空は晴れていますよ

昔と同じようにね

 

さよならで陽が暮れる

影法師が細い道を歩いて帰る

僕が夢みるのは いつも陽の落ちるとき

空が赤く泣きはらしているときー

 

夢は帰らないのですよ

あの夜空の向こうに 明日はもうないのですよ

 

悲しさも尽きましたよ

涙なんて甘いものですよ

 

人間はなぜ疲れるのでしょうね

くだらないことばかり背負いこんで

いっそ くたばっちまえばいいのに

その割には タフなのですから

 

今はもう さよならを言う人も

いなくなってしまいましたよ

若さなんて 弱いものですね

それだけに支えられてきている

人間ってどうなるんでしょうね

 

そうですよ まだ若いんですよ 僕は

まだ生きていますよ 二十歳ですよ

もう少し生きますよ

幸せすぎた 二十年の余韻としてでなくー

生きられない人の分だけでも

少しはしっかりとね



21.希望をもって

 

希望をもって 生きろですって

なんて辛いお言葉 なまじ希望があるからに

陽の陰った日には どうしようもなく暗くなる

それが人生と申される

 

小さな渦を巻きながら 流れる大河に

人間は なんて滑稽に もがいているのでしょう

当人が真剣であるほどに 辛く苦しいのです

 

そんな試練が必要だと思ってみても

闇の中の迷い子ー 若さが

失われていく音が 静かに響きゆく

 

どこへ どこへゆく

我は語りかける 汝はこたえず

汝は知っていよう 我は知らず

誰も知りやしない 我のみが知る

 

知ってどうなる 知ったら終わりだ

あくなき問いは絶えず

一つの答えも返らず

 

希望をもって生きるですって

なんておもしろいお言葉



22.君は笑った

 

君は笑った 君は笑った

僕の涙を 僕の命を

大人になりゆくことは

男と女の運命は 去りゆくことだと

 

君は笑った 君は笑った

強いて無邪気を装って

笑えない僕の分まで

まだ若いんだ 人生はこれからだと

 

君は笑った 君は笑った

そうすることだけが 圧迫する

沈黙の 悲しい調べを

わずかでもはねのけられると

 

君は笑った 君は笑った

無音で空を赤めている

僕のそばで思い直しては

手に力をこめて

 

君は笑った 君は笑った

こんなこと 私たちには初めてだけど

これからは よくあることなのよと

君の瞳は 潤んでいた



23.春眠

 

春が来まして

すんでのとこで

貴方を忘れるとこでした

 

勉強すると眠くなるのはー

人の体がそれに適していないから

眠いときには眠らねばー

されど教師は怒る

 

僕の責任?

いや 教師の責任

一人のときは

僕の責任?

いや 春風の責任



24.生きる

 

悲しいとき 夢は去り 心は落ち込む

楽しい夢を追いかけ 気持ちを紛らすことの

できないときは 自らの心を慰めて

何もかも忘れてしまいたい

 

それもできないときは のどから手をいれ

すっかり縮んだ心を取り出し

きれいに洗ってしまえばよい

 

悲しいことのあるほどに 心は大きく

人間は深くなる 幸いなるかな

豊かな滋養を受けし人は

 

悲しいときは やはり悲しいもの

身も心も すっかり灰色にくもり

血も青くなってしまう

そんなときは 安らかなる眠りも

おいしい食卓もおあずけとなる

 

夢を追う若さだけが 唯一の支え

それがなくなったら 悲しくならないように

生きるしかないのかしら

 

進んでいるのか 退いているのか

自らの足取りさえも分からず

目的地もうつろとなり

何もかも間違っていたような気がしてくる

 

それでも 生きていることはわかる

生きていれば 必ずよいこともあろう

生きるしかないのだから

生きるしかない

生きるしか

生きる



25.愛の剣

 

君を愛す それは神の気まぐれだった

何らかの運命の糸が続いていて 僕らが

この世で出会ったなら その糸を切ったのは誰だ

 

僕らは情熱の刃石で 愛を研ぎあげた

諸刃の剣 そのつかを二人でしかと握って

僕らの愛を妨げるものは片端から 切り裂いた

 

今や 僕らは自由だった

見渡す限り 草木一本

僕らの目を奪うものはない

残ったのは 砂漠だった

 

僕らは互いを見つめあうばかりだった

ただ一つ 邪魔になったのは 諸刃の剣だった

それを捨てる場所はなかった

極限まで磨き上げられたその剣を見るたびに

僕らは不安になった

 

それを二人で砂に深く突き刺し

その場を離れると剣は わずかの間に

輝きを失い 朽ち果てた

 

君は一言残して 去っていった

あの剣は 互いの胸を突き放してしまうために

あったのでしょうね



26.スポットライト

 

僕は太陽に呼びかける 太陽は神の代理

地上をくまなく照らし 普遍の愛を与える

太陽よ 僕にこたえてくれ 僕だけを

わずかでもよい 照らしてくれ

 

太陽はあまりに偉大だから

ちっぽけな人間たちは 透けて見える

だから 僕は丘に登ろうとした

地上で一番高いところに登ろうとした

 

必死の努力で 太陽の視線をものにしようと

その温かな愛を一人占めしようとした

多くの冒険者は 徐々に限界を感じ

あるいは考えを変え 脱落していた

 

僕は太陽の熱が欲しかった

それで焼かれ死す

人間の栄光を手にしたかった

仲間は次々に倒れていくが

僕は頑なに登った

 

しかし どうしたことだ

太陽は以前にもまして 知らぬ顔をしている

体は冷える一方 登りつめるほどに

呼吸まで困難になっていく

 

僕はとうとう一人になれた

喜びの中で 太陽の至福を受けようと

雲を抜けた

 

しかし そこに太陽はなかった

太陽は地平の果てで

街の人々の顔を 赤らかに照らしていた

 

僕は雪の上に倒れた

誰にもみとられず 冷たく冷え切った

小さな丘の上に



27.罠

 

悪魔は掘った落とし穴のそばで

ずいぶん長い間 頬づえをついて待っていた

神は その粗雑な罠のそばを

微笑んで 行き来した

 

いつの間にか そこに道ができた

大半の人間どもは そこを通った

神の好むような人間は 最初からこの道を避けたので

落ちることはなかった

 

神の意志と悪魔の誘惑に

ふたまたをかけている人間がいた

神は自らの側へと 彼に手をさしのべてはいたので

悪魔は乗り気でなかった

 

その人間は世界を我がものにしようと

善の意志に加え 人間らしき欲望に純粋だった

 

悪魔は 神の手にある希望の灯をねつ造し

若者にちらつかせた

若者はその灯に導かれ

その道をたどっていった

 

神は忠告した それは真の道ではないと

しかし 若者は自己の力を過信していた

必ずや 願望がかなうと

 

若者はただ その灯だけを頼りに歩いていた

そして 若者が唯一の特権である若さを

手放したときだった

悪魔は灯を消した

 

導かれるものは 落とし穴へ転落していった



28.うつろい

 

愛はうつろうもの

広い海ですれ違う 二羽の渡り鳥

君は白鳥 僕はつばめ

嵐の夜 別世界の二人が

 

神のなすところによって

めぐり会った そこまではよかった

 

ところが お互いの世界で

それぞれの分というものを

忘れちまったものだから

すべてがおかしくなっちまった

 

いくら相手を恋しても その人に

なりきろうとすると 自分が壊れるもの

壊れ消えちまったら

どれほどにも 相手を愛せても

愛されるべき 当の自分がいない

 

僕の魂は いつの間にか

あなたの心に吸いとられ

もくずとなった僕の体は

知らぬ間に 吹き飛ばされていた

 

あなたの心で燃え尽きた僕は

もう我が身に甘んじようと

あなたに別れを告げた

されど 僕の魂に帰るところはない

 

体はほろび 悪しきは我身か君か

すべもなく 空は暮れゆく



29.真夏のラブストーリー

 

今 書き終えた一通の手紙

明日 僕の指に固く結んで

すべてが終わる

 

あたかも 僕らの愛が始まったときと同じ

頃は七月 真夏の太陽の季節

熱く 浜を蹴って

永遠の海に飛び込んだ

 

僕らは 沈む太陽を追いかけた

もっと熱く もっと熱く

僕らは燃え続けたかった

 

君の笑顔は波しぶきにはじけ

その声は 青空の天井に響きわたった

僕らは誓った どこまでも太陽を

追いかけていこうと・・・

 

無謀なのはわかっていた

永遠と泳ぎ続けられるはずはない

でも僕は 自信があった

君といれば どんなことでもできると信じていた

 

疲れ果てて 僕らは波の間に漂っていた

太陽は海のかなたに沈んだ

いつ知れず 君の顔も波間に消えた

僕は星まで飛びたかった 君をひっぱって

でも どっぷり浸かっている

 

海にあまりに暗く 重かった

君と二人 飛び込んだ海

太陽は消え 僕らは飲み込まれた



30.子猫

 

一人ぼっちで 僕の部屋に

ひょんなことから迷い込んだ

小さな子猫ちゃん

 

大して邪魔にもならなかったから

軽い気持ちで おいてあげたのが間違いのもと

何を隠そう この子猫ちゃん

大のいたずら好き

 

僕の部屋は前にも増して めちゃくちゃ

とうとう 耐え切れずに

僕は 旅の支度を整えてやった

 

何を思ったか 子猫ちゃん

小さな鈴を一つ 僕に残して

意気悠々と旅だった

 

二、三日は 一息ついたはずの僕の心は

不思議なことに 気が重く 晴れない

ゴロリと寝ころんで 頭に浮かぶは

子猫ちゃん わずかな共同生活

楽しかったことばかり 去りてわかる人の情

 

うまくいかぬは世の常

手元に残った一つの鈴

後悔先にたたず 部屋のものすべては

いつの間にか 子猫ちゃんのもの

 

何を見ても 思い浮かぶは 子猫ちゃん

我ながら 呆れて あんな子猫に

時がうつろえばとは 思ってみても あとの祭り