史の詩集  Fuhito Fukushima

福島史(ふくしまふひと)の詩集です。

「詩人の魂」

― 史(ふひと)独白

 もう本人も忘れてしまった遠い日々、必死に書き連ねたであろうノート1冊が、プリントすると、わずか10ページくらいに納まってしまう。そうして、凝縮してしまった日々の重みを、すでに遠く消えてしまった私の細胞を感じ、直すことさえかなわない。今の私にはいとおしくも、もう振り返れない想いを、他人事のようにながめては、ため息をつくのであった。


10-20’sぽえむによせて・・・

これは私のずっと若いとき、あなたがこれから夢を追いかける年齢なら、私がその時期、こんなことを書き連ねていたことを知ってもらうのもいいと思ったのです。

 もう私には必要のないものだけど、同じくらいの年齢の人には、通じるものもあればと思ったのです。

 
 
 
「詩人の魂」 ―10-20’s(ティーンズ)の僕へ捧げる詩


もう私は詩人じゃない
もう私は詩人じゃない
もう私は歌わない
もう私は歌を詠まない

遠い遠い昔から 詩人は詩を歌に残してきた
世界中で どの時代も

喜びも悲しみ怒りも嘆きもあきらめも
詩人はどこかの誰かの思いを
ことばにして歌い続けてきた

その歌を聞いて 僕は育った
その歌を聞いて 僕は生きた
その歌を聞いて 僕は大人になった


まだ私には 歌うべきものがある
まだ私は 歌わなくてはいけない


けれど 僕の歌を聞く人は
けれど 僕の歌を聞いてくれる人は
次々と去っていった
僕の前から 僕の国から 僕の時代から

喜びも悲しみ怒りも嘆きもあきらめも
僕は僕の大切な人の思いを
ことばにしようと 歌い続けてきた

でも 僕に抱え切れないほどの思いを残して
大切な人は去った いなくなった 死んでしまった

僕の大切な人への思いは 溢れんばかりに出づるのに
その思いは 一つもことばになりやしない
その思いは 一つの声に出やしない

そして 僕は気づく 僕は詩人なんかじゃなかった


もう私は詩人じゃない
私は歌わなかった 歌えなかった
大切な人々が 私に歌い続けてくれたとき
私はそれをきちんと受け止められなかった

僕のまわりの詩人たちは
僕に この世を人生を愛を幸せを 歌い続けてくれた
数え切れないくらい 多くの詩人たちよ
その歌よ 詩よ 声よ

僕はただそのことばを思い出して 今は涙するのだ
僕はただその歌を噛みしめつつ もうボロボロになるのだ
そうしてようやく 大切だった人たちの魂にふれる
許しを願うのだ それは魂 まさに 魂となり
彼らは僕の記憶の中に留まっているだけ


だからこそ 私は歌わなくてはいけない
だからこそ 私は声を出し 詩をつくり
歌を歌い続けなくてはいけない

願わくば 彼らの奴隷となって
彼らのくれたものを 忘れずに
彼らのいくつかでも伝え残したい


僕は詩人をやめ 詩を詠まず ただ 彼らの魂を祈る
そのために 声を出す 詩をつくる 歌を歌う
そして 詩人の魂は 今日も生きる
詩人たちの知らないところで

詩人でなかった人
詩人をやめた人
詩人と気づかない人
そんな人々の中で
詩人の魂は生き続ける
永く 永く いつの世も どこでも