史の詩集  Fuhito Fukushima

福島史(ふくしまふひと)の詩集です。

Vol.11−2

詩Vol.11

 

31.恋狂

 

ああ 白棒の木よ おまえには

僕の前に広がる大海の荒々しさを

それを渡っていこうとする僕の力強い決意を

僕のこの見にはあまりにあふれるのが

もったいなくて 活かしてやったもんだね

 

その僕が今日は 情けないくらいに

ズタズタの心をひきずって

弱音を聞いてもらいたくてきたのだ

笑ってくれ ののしってくれ

所詮つまらぬ男だったのだ 

沈黙はあまりに苦しい

 

おまえは恋という廃物を知っているかい

そして、その魔物に踊らされつづけていた男を

知っているかい 

 

僕だよ 僕だ あまりに若い

若くてわるいか わるいわけない 

わるいのは 押さえのきかぬ この心 

わが身のせつなさよ

 

まわれ まわれ 地球よ まわれ

まわって まわって 時の流れに 

この悲しみを 散らしてくれ

 

 

32.憤り

 

わかっていたさ わかっていたさ

君の心に僕は住んでないこと

それなのに君は僕にやさしかった

君のやさしさにすがりついてきた僕だった

 

悲しいさ 悲しいさ 何だか無情に悲しいさ

君は舞台のヒロイン

僕の心の中も歩きまわる

好きなだけ踏みあらして

僕がつかまえられぬうちに去ってしまう

 

君は冷たい やさしいあまりに冷たい

君は僕に笑ってくれる、僕がそう言えば

しかし 僕は それより言いだせない

 

 

33.恋風

 

君を愛しはじめて七年目

ずいぶんといろんな風が

僕を吹いたけれど

通りすぎたら

いつも からっぽ

 

どんなに望んでも

つかめない風

されども されども

吹いている

 

一吹きごとに 心の炎は舞いあがる

もう七年だよ こんな毎日が

恋のたぎりが失せないのは

ありがたいけど

つらいったらありゃしない

片恋のせつなさは 今日も

風の上をかすめていく



34.ハートブレイク

 

君を見たときの驚き

僕の心臓が人並みなら

止まってしまっただろう

 

血がとくとくと体をめぐる

あつく あつく 息が苦しくなるほどに

 

君はほかの男に抱かれていた

そうさ 僕は いつも悲しみさ

夢に生きる哀れなもんよ

 

君はうっとりしていた

僕の心臓をぐさぐさと突きさして

 

あなたにとってこの上ない思い出

甘いひとときは

僕を責め苦の地獄に突きおとす



35.ある秋の日

 

こんなにさびしい酒場に一人

傷にしみいる秋風うけて

苦しむだけ苦しみゃ 楽になるかと

飲む金もなく よりつく女もなく

ただ 疲れはてて 羽を休める

 

そんなにしょげるなよ

何にもないとおまえは言うけど

若さがあるじゃないか

あるいはもしやと期待しただけ

無駄だった

 

恋しい人は一目も向けず

僕を通りすぎていった

恋するだけ恋すりゃ 思いつきるかと

何もかも投げだして愛したのに

ただ 疲れはてて 涙がかれる



36.雪

 

雪がぽつりとわびしそうに

降ってきました

僕は小さな手で

つつんでやろうと

必死に駆け回りました

 

やっと手のひらに入ったと

思ったとき

雪はもはや涙となっていたのです

 

僕は悲しくなりました

僕が余計なことをしなかったら

雪はもうどれだけか

空の旅を楽しめたのです

 

僕はただ冷たさを

美しく飾っている雪が

うらやましかったのです

 

永遠のあこがれ

かぎりなく雪は白いのです

地上についたら

だめなのです

 

だから、僕はやさしさの

ひとかけらをもたぬ

雪を追いかけていたのです



37.薔薇

 

僕がまだ14のときだった

僕は 一輪の薔薇に気づいた

美しきものに生得の反抗心を

持っていた僕は それを

蹴ちらかしたくてたまらなかった

しかし 薔薇はいばらの向こうにあった

丸腰の僕は憎しみをこめた目で

見つめるしかなかった

 

僕は我欲のため 毎日少しずつ

いばらを棒でとりのぞいていった

夏の直射のもと 僕は幼い

維持(意地?)だけを通しに努力をつづけた

 

冬の突風のもと 僕は

薔薇の健在を祈りつづけていた

いつのまにか憎しみは愛にかわった

 

僕は薔薇を見ているだけで精一杯だった

薔薇はより美しくなった

誰の目にも止まるようになった

僕は人の目をぬすみ

何度か夜中に手をのばした

 

薔薇は いばらより残酷であった

僕は幾度も傷つけられた

それでも僕の心は動かなかったのだ

薔薇は やさしい笑顔の中に鋭いとげを

隠しもっているのだ

それは美しさを守るためではなく

美しさそのもののもつ

本性なのだ

 

僕の血は薔薇より赤くしたたった

僕は自分の命を薔薇に捧げた

倒れ伏した僕に 薔薇は一枚の花びらも

投げかけてくれなかった

しかし 僕の思いはもはや

憎しみには戻れなかった



38.Mountain Climbing

 

僕がのぼるのは あの山だ

前人未踏の存在さえ知られていない

あの山だ

てっペンが星より高いところに

あるほどに大きいから

人間の目の中には入りきれぬのだ

 

何やら ずいぶん上までのぼった人もいたらしい

誰も戻ってこれなかったという

そりゃそうだ だからこそよいのだ

 

僕はこの地にロープの先をしっかり

結びつけてのぼっていく

戻るためじゃない 君が いつの日か

ついてきてくれることを信じてだ

二人でのぼれるときを祈ってだ

 

天空は空気がいいぞ

雲が下に見おろせるだろう

地球は何色をしているかな

たとえ これが愚行であったとしても

僕は後悔しないさ

ロープのもう一方の先が

あなたの手に握られていると思えばこそ

僕は安らかにのぼれるんだよ



39.自殺考<ともに生きて結ばれぬ場合>

 

君を殺して僕も死に 天国で結ばれようと

昔語りに考えてみたけど

天国に行きゃ それなりにいい男がいるし

その前に 行き先が別れちまいそうだ

 

君も殺さずに 僕も死なず結ばれるには

手間はかかるが 他の人間を皆殺して

二人っきりになりゃ いや

その前に君はまちがいなく死ぬだろうな

 

君を殺して僕しなずんば 僕は君のため

全くいないところで処されるだろう 

それよっか 君は殺さず僕だけ死ねば

君も喜ぶだろうし

やっぱり これしか なかろうな



40.別れのあと

 

あなたは自分の世界から

引きあげてくる

汗をふき人と楽しそうに笑っているけど

あなたの心がどんなに傷で

ズタズタになっているか

長年 その心を追ってきた

私にはわかる

 

あなたはそんな私の目に気づくと

昔のようなやさしさで

そっと目をそらした

別れという形によって 心が

分けられることはあるまいに

 

あなたは私にぽつりといった

私は飛ぶ 果てしなく

あなたのところに 翼休めるひまもない

あなたは 私のことを考える心を

私のところへ置き去りにしたまま出ていった

それが苦しいなら 取りにくればいいのに

あなたの翼はもう戻らない



41.自分の姿

 

僕は自分がいやになって

それでも その影を見た

足は とてつもなく長かった

僕は希望に瞳をうるおした

 

しかし そのあと

僕の目に入ったのは

なんて 長い胴であったことか



42.悲しみの夜

 

夜 静まり返って まっ暗で

生きとし生けるもの 声をひそめ

ヤスラカナル眠りを 貧ぼる

 

否 僕には聞こえる この甘たるい夜を

涙でしめらしている 人の嘆きか

星は輝く 白く輝く 夢見る人は知らない

 

でも 悲しい人の目に光がにじむ

涙をぬぐってごらんよ

朝まで泣いていてもいいけど

涙が乾いてしまっちゃ

悲しみは 心の底にしまわれるよ

誰もいない 夜だもの

君のために

あんなにたくさん星がかがやいている



43.忘却

 

大人になっちまったとき

無邪気な愛は

たんぽぽ 風のように

フワフワ 飛び散ったのか

 

愛だと気づく前から

ずっと愛してきた

君は一度も僕を

かえりみなかったけど

一途な愛を捧げてきた

 

君は天使だった 神だった

僕の全てだった

いつも僕は一人だったけど

心の中では君が笑っていた

 

君からつっぱねられたあとも

僕だけは君をはなさなかった

それほどの愛だったのに

今はもう

信じられないぐらいに

一かけらの思い出も残っていない

 

遠い遠い雲に呼びかける

愛にかけた僕の心よ

戻ってこい

 

君が去って

そして

君を思う心が去って

そして

僕自身も去っちまった



44.ま、どんな

 

僕は海が見たくなった

そこでテクテク テクテク歩いて

太陽の昇る方へ向かった

どれだけ歩いただろう

潮風は強く鼻につくけど

波の音が激しく耳をつんざくけど

 

どんなにどんなに歩いても

海は見えなかった

どんなにどんなに 走っても

どんなに

 

僕の頭の上をかもめがとんで

青い空に気をうばわれていた

僕はいつのまにか

大海をおよいでいた



45.再会

 

君は最初から僕には目もくれなかった

それでも僕は執拗なまでに愛しつづけた

報われぬ愛は僕を成長させた

天上の女神だった君を

幼子のように見えるほどに

そして

僕の愛は捧げられるものから

施されるものになり果てた

 

君は 古傷のように ときに

ひどく僕を悩ますことがある

しかし

それも実際は大したことがないのさ

 

僕の心があれほど愛に

情熱をかたむけられた

昔をなつかしんで うづくのさ

 

今日 君は 僕のそばにいる

それが 何になろう

失われたときは

二度とは戻らない

 

明日 君は僕を遠く離れる

それが 何になろう

すでに心 異郷にさすらえる

二人にしてみれば



46.現代人

 

僕らは温室に栽培された

冷たい風雪にもさらされず

害虫や病もよせつけず

暖かな愛の恩恵の中に成長した

 

太陽はいつも微笑んでいた

川のせせらぎが 呼んでいた

星が夜空に泣いていた

虫がすぐそばであえいでいた

 

そんなものをいいかげんにあしらって

僕らは 遠い異国の

お話しばかり聞いていた

 

誰よりも 喜びはあったけど

誰よりも 幸せではあったけど

何かしら欠けているものがあることに

気づくことはなかった

 

僕らは 不幸を知らなかった

骨の髄までしみいる悲しみも

胸のうち えぐる 苦しさも

心臓をもむような息苦しさも 怒りも

地球を串刺しにしたい やりきれなさも

 

僕らの顔にはしわがない

頭には白髪がない

何たることか 僕らは皆 同じ顔をしている



47.道

 

僕は舗道を歩いている

アスファルトの黒い固い道だ

どこまでも

ずっと伸びているもんだと思っている

横道にそれぬかぎり

安全と思っている

 

生まれたときから

僕はこの道を歩いているんだから

 

何の疑いもありゃしない

ビルの谷間をさっそうと歩き

からっ風もほこりも

こわいものなどない

 

されどこの道をはずれたところに

本当の世界はあけているので

いると 風がささやく

この道からみえる景色は

看版かも と雲がたぶらかす

この道は 十字架と空がうそふく

 

それにしても

僕はこの道にほおをつけ

この道をさえ 確かめたことはない

僕の世界は全て虚構の産物



48.巨大なる偽り

 

雲の切れ間から太陽の一筋の光が

蝶を舞いあがらせた

それを追いかけた僕は

キャベツ畑をこえ

あぜ道をゆき

川野ほとりを歩き

木々とともに呼吸をし

幻想の世界に遊んだ

 

幻想 そうなのだ

蝶が消えてしまったとき

足もとにいつもの黒く固い

道が伸びているのに

めまいをおぼえた

 

僕は 横から

鋼鉄の親しき友に

砕けとばされてしまった

やっと やっと 自由になれた



49.両親

 

この広い世界に私を愛する人

教えてみた

両手を両足を用意したのに

右手の指と人差し指

二本が曲がったあと

プツリと とだえた

 

私はひどく さびしくなった

人間って そんなものかと

 

そして こんどは

私の愛する人

教えてみた

一人二人、三人と調子よくいかぬように

もったいぶって 考えてみたら

 

一人もいなかった

私はひどく なさけなくなった

こんな私を愛してくれる

たった二人の人間が

とても ありがたく 見えた



50.モットー

 

幸福という名の不幸に

別れを告げ

不幸という名の幸福と

ともにいこうと

現実という虚像に

甘んじず

理想という実像に

足をつけていこうと

喜び、親しみといった 人の求めるものに

背をむけ

苦しみ、悲しみといった人の嫌がるものに

面をむけ

一歩ずつ歩んでいこうと思った



51.月夜に(Ⅰ)☆

 

月がブラックから切り出されて

ぶらさがっています

夜空の裏側は

あんなにも明るいものでしょうか

 

そういやあ

古びたナベぶたの穴ぼこに

もれくる光は

さびしくも笑っているでは

ありませんか

 

ところで 太陽は

元気にやっているのでしょうか

僕はこの頃やたら気がかりに

なりました

皆があまりにもっとも

というので

安心していたんですか

はたはた

幻想ではありませんか

そいつは

幸いあまりにまばゆいので

真偽のほどは

定かではありません

だいたい

どうでもいいことなのです

だから

平和なのです

 

僕だって

こうして

目を変てこな感染で

せっかくの月まで

見られなくなっては

もともこもありませんもの

 

ナベぶたを持ちあげる

ちょっとのすきに

大きな手が好意的に

熱い無節操な太陽を

自動温度調節の電機具に

変えたような

気がするのです



52.月夜に(Ⅱ)

 

月がブラックから

切り出されて

つり下がっています

 

夜空の裏側は

あんなにも

明るいのでしょうか

 

そういえば

古びたナベぶたの穴ぼこから

もれくる灯りは

さびしくも

笑っているではありませんか

 

今も太陽は天気にやっているのでしょうか

僕には遠い昔に思えるのです

皆が見ているもの

 

あれは、幻想ではありませんか

 

いつのまにか

すりかわってしまった

精功な太陽に

目を焼かれて

せっかくの月が

見られなくなっては

もともこもありませんもの

 

ナベぶたを持ちあげる

ちょっとのすきに

大きな手が

暖かい太陽を

精巧な電燈に

変えてしまったのかもしれません

幸いあまりにまばゆいので

真偽のほどはわかりません



53.月夜に(Ⅲ)

 

月がブラックから

切り出されて

つりさがっています

夜空の裏側は

あんなにも

明るいのでしょうか

 

そういえば

古ぼけたナベぶたの穴ぼこに

もれくる燈りは

さびしくも

笑っているではありませんか

 

今にひびが入って

パカンと

夜空は割れそうです

 

そこにゆらめき

うめくのは太陽でしょうか

光のまばゆさに

誰もがそう思うでしょう

皆が見ているもの

 

僕は遠い昔のように思えるのです

それは幻想ではありませんか

 

皆が見ているもの

あれは幻想ではありませんか

 

いつのまにか愛を忘れた

人工の太陽に目をやられて

せっかくの月がみれなくなっては

もともこもありませんもの



54.虚脱(月夜にⅣ)

 

月がブラックから

切り出されて

ぶらさがっています

 

夜空の裏側は

あんなにも

明るいのでしょうか

 

そういやあ

古びたナベぶたの

穴ぼこに

もれくる燈は

さびしくも笑っているでは

ありませんか

 

さてさて 太陽は

天気にやっておりますことやら

僕は 気分ゆううつ

 

あまりにもっともと

昼に生きている人が笑うので

かえって 幻想

僕 あやうくなりました

 

ナベぶたを持ちあげる

ちょっとのすきに

大きな手があくまで厚意的に

熱い無節操な太陽を

自動温度調節の電気具に

取り変えたとしたら…

 

幸いあまりにまばゆいので

真偽のほどは定かではありませんが

ちょっと調子がわるいみたいで

そんな気がしたので

(それとて)

だいたい どうでも いいことなのです

太陽を忘れるほど

平和なのです

 

僕とても

こうした目を変にやかれて

せっかくの月まで

見られなくなっては

もともこもありませんもの

 

Vol.11−1

詩Vol.11

 

1.月影

 

あなたは月を見るのが好きでしたね

だから 今宵もどこかで見ているでしょう

だって 今宵はこんなに美しいんですもの

 

あなたは月しか見ない人でしたね

夜空の満天の星を従えて、ひときわ大きく輝く月

そう あなたもまた 月のような人だったから

 

あなたは考えたこともないでしょうね

月にうつったあなたをいつも見ている男が

ここにいるってことをね

 

あなたは月を見るのが好きでしたね

だから 今宵もどこかで見ているでしょう

だって 今宵は僕も見ているんですもの



2.影との幸福

 

田園のエキスを

腹底に吸ったとたん

背後に音がした

 

降り返ったはずみで

落とした目に醜悪な

影がゆれていた

表向き 影は闇にまぎれたらしい

 

あからさまに 僕が 現れた

誰もいないうちには 虚像に過ぎぬと

思っていたから 油断した

 

僕はたばこをとりだした

ポカポカとやった煙が

どうしたことだ おちていく

何たることだ どろんと

ふくれた影の口に入っただけじゃない

おまけにうまそうに笑いやがった

 

それからだ

僕はそいつの下僕となった

それからの僕は 概して幸福だった

 

休暇があけ

都会の不夜城の照明に

主人はあっけなく果てた

 

そして 又、いつの間にか

散歩の伴侶に

ふさわしいスマートな影が

へつらった

 

深呼吸をするときに

僕は 何かを感じる

だが 彼の呼吸は聞こえるわけもない

 

僕は主人を失い 従僕を従えて

いつもどこに行こうか

頭を悩ますのだった



3.影との至福

 

田舎のエキスを吸ったとたん

背後でカサッと音がした

降り返ったはずみにおとした

影があった

二つあった

 

僕は日かげに逃走した

 

表の影はしかるべくして

闇にまぎれこんだ

でも、どうしたことだ

愚鈍で醜悪極まる影が

もう一つ、どろんと

灰色のアメーバ

よろしくゆらめいている

 

僕は人目をはばかった

大丈夫だ 大丈夫

誰もいやしまい

この影は虚妄だ

 

そして足先から

そっと日なたにでた

表向きの影は裏切って逃げた

とたんに、あからさまに

僕が現れた

戦慄が走った

 

僕は、たばこをとりだした

ポカポカとやった煙が

どうしたことだ おちていく

何たることだ

憎々しげな影の口に

吸いこまれていった

おまけにうまそうに笑いやがった

 

なるべきもんはなるべくなるもんで

そのときより 僕はそいつの下僕となった

(概して幸せだった)

それから一か月も経たず、

都会の照明を浴びた主人は

八つ裂きになって死んだ

 

天気のよい日にはチャンとした

昔からの影が 散歩の供をする

ときに嫌気がさし

僕は気配を伺う

彼を求める

しかし、わかるはずもない

影なのだから



4.冬の海

 

海よ、なぜ 僕を拒む

夏の夜のように僕の全身(からだ)を

やさしく受け入れてくれないのか

そして、叩きのめされた

僕を清めてくれないのか

 

そんなにも激しく、怒りを隠しきれぬ

怒涛のごとき 波を振りあげ

近よる 僕を打ち砕こうとする

 

なぜだ、海よ やっとたどりついたのに

おまえの強さが悲しい

おまえの偉大さに僕は孤独だ

 

おまえは永遠だ

僕にとっては

 

海よ 僕を生みし、太古の母の血をひくもの

そして今もなお 僕の愛する可憐な乙女よ

僕はおまえの中に還りたい

よしんば命失おうとも

おまえの生命の中で生きていたい

 

しかし、僕にはわかりすぎている

おまえは、きっと浜辺に

醜い僕の死体を吐きだすだろう

 

僕は浜辺をあとにする 

そしてまた近くに立つ

ああ、海よ

遠くで見るおまえは何とやさしく美しい

今、おまえはいったい何を思う



5.MY ETERNAL IDEA

 

わかりますか

僕にはわかりません

僕が呼びかけるとき

いつも貴方の形をとって現れるのです

まるで神というもののように

 

昔の貴方の生き方に対する怨念が

亡霊としてとりついているのでしょうか

貴方は貴方でよいと

(きっと絶対的なものでしょう)

なのに

永遠に僕から去らぬのです

観念の世界です

 

そのイデアはなにか

その至高点において僕は現実の貴方の可能性

引きだし延びるものの存在を信じています

それゆえ貴方に寛容で過酷なのです

わからないのです

僕にとっての貴方

前世の緑でもあるのでしょうか



6.ヴイヨンの日☆

 

あれは、遠い日の芝居

茶色の教室

名うてのピエロが当てられた

 

あわてて立ち上がったピエロの

落とした目は

真白のノオト

 

あまりにこもれ陽やさしくて

皆が背まるめていそしむとき

秋空に心たくしたピエロだった

 

真人間になることを強いられたピエロは

起死回生と持ち前の才分で

即興を試してみた

 

ピエロの朗読は終わり

評価待たずに爆笑の渦に沈没し

ポカンと浮かびあがったピエロは

大きなうねりに

反射的に興じて逃げ切った

 

あれは、遠い日の芝居

茶色の教室



7.徒競走

 

ピストルのなる前

得意だったか

ピストルがなって

走っていたか

テープを切って

走らされていたか

商品をもらって

踊らされていたか



8.処女星

 

天上はるかに輝いていた

清なる気高い星に

僕はのぼろうとした

あわよくば手をのばし

自分の胸のワッペンにしようとした

純粋すぎる処女は

愛されることを知らなかった

僕は、地上に目を落とし 生活した

消えたはずの星は

天上はるかに輝いていた

僕は持てるかぎりの真心をもって

それを見つめた

あんなに遠いところだけれど

輝いているかぎり

星は僕の心の分だけ美しくなった



9.あなたは僕の胃袋で

 

余さず消化され

偉大なる戦士の勲章をはぎ

戦場を後にした

 

後方で待っている

あなたにとっては

無意味でしかない戦いから抜け

僕にとってのやすらぎの場である

あなたに帰ることを

 

されども、魂の慟哭に僕は

あなたの生気をくみつくして

前に進む

 

よしや、あなたの姿が遠くなろうとも

あなたにふさわしい僕は

第一線におろくをさらしている



10.ジュテーム

 

あなたはふらんす語を練習する

ジュテーム ジュテーム ジュテーム

あなたはりゅうちょうに

ふらんす語を話そうとする

あなたはまだまだ感情を

こめることを知らない

それだけが僕に安堵を与える

 

あなたはどこを見てつぶやくのか

ジュテーム ジュテーム ジュテーム

あなたがりゅうちょうにそれを

話せるようになったとき

僕はあなたにこういおう

おうるゔぉあーる もんでゅー



11.光求めて

 

暗い冷たい地底を 僕は堀りゆく

気まぐれに目にとびこんだ

せまい音の入り口

僕はその張りつめた冷気にあくがれ

(地上はなまぬるくはき気をもよおした)

太陽を否定し うわっばりの幸せをはぎ捨て

飛び込んだのだ

 

このまま埋もれてしまうにしろ

僕は僕の思うがまま できるかぎり進む

それを持続させうる情熱だけは 燃えてくれ

光は見えるか 否

光は見えるか 否

とんでもない誤りだったかもしれない

しかし、これこそ人生だ

光求めて進む 進めるかぎり



12.不在

 

あなたはとっても気まぐれだ

ころよい返事をしておいて

相手の心をころころまわし

喜び返すまもなく 心を閉ざす

 

あなたは言ったじゃないか

僕と話していたいって

だから、そうすることにしたんじゃないか

 

そうしたとたん あなたの心は上の空

僕なんぞからずっと離れりゃ 一人ぼっち

いい加減におしじゃないか

 

あなたはとっては気まぐれだ

その気まぐれにつきあう

能のない男にとっちゃたまらない

不感であるほどに ありがたいもんだから



13.さまよう

 

街通りひそやかに

店 目くばせに閉じ

冷気たなびく 黒の道

腹 背に張りつき

足 くびれた鉄に

 

ゆくあてなく

それでも寒さに耐えず

さまよわねばならぬ

この身呪わしや

 

のと奥から魂を吐き出し

いたく踏みつける

 

あなたは笑ったか

さりとて今は何になろう

過去の灯に小便をかけちまった

今さら それがなめられようか

 

汚れた天使 消え去れ

わずらった脳を洗い流せ



14.悲恋

 

自己を投棄した愛は

春の陽を賛歌しながら

過酷なまでに身をもだえる

残雪の白さよ

 

ちぎれる運命の直視を

躊躇しなかった愛は

汚された大地を清浄する

 

報われることを伺う

望まなかった愛は

雪溶け水の(と) 屈託なさよ

 

僕だけが見いだした貴方を

精一杯高めようと

僕は己の心臓を突き刺してきた

 

唯一貴方の幸福に

帰する純潔さを認識するに

悲恋ほど美しいものもなかった

 

したたる一滴一滴の血が

貴方の純潔な魂をより純化させる

悲恋という名の結晶作用

だがそろそろ 血も枯れてきた



15.溶接☆

 

白い布(きれ)をのけてください

苦しくて息ができません

魂が上がっていかれません

微笑んでいてもやりきれません

 

白い布はわずかにも動かなかった

僕の知っているあなたは

動かずにいられなかった

はしゃぎまわっていた

思い出があまりに重すぎて

 

この世に別れを告げるのに

作り笑いをしいられた

 

白い布をのけてください

朝の空気が吸いたいのです

今一度胸の奥まで吸い込んで

上っていきたいのです

 

白い布が(おせっかいな風に)半分身をおこした

僕の知っているあなたは

あまりに静かに眠っていた

遠く遠くで鐘が低くなった(ひびいてきた)

顔が隠れた

 

あなたはようやく天使にひかれ 地を蹴った

舞い上がれなかった 悲しみという名の

白い布を残して

 

僕は白い布をそっと

ポケットの奥深く入れた



16.溶接Ⅱ

 

貴方がつぶやいている

白い布(きれ)をのけてください

苦しくて息ができません

魂が上がっていかれません

微笑んでいてもやりきれません

 

僕がのけてやろう、白い布を

ほら、こんなにも安らかに

あなたは眠りについた

 

誰よりもはしゃいで 思い出をつくりすぎた

一生かかってささげる愛を

すべて捧げつくしちまったばかりに

こんなにも若く 神のごひいきにあっちまった

 

何も気にすることはない

白い布は僕が処分するから

あなたは 生きぬいた明るさだけをもっていけ

天使とたわむれながら 地をけっておいき

あなたに白い布は似合わない

僕には 幸せなあなたしかいない



17.時のはざまで

 

僕はできるかぎり愛情を捧げて

さぞや美しいあの花を咲かせよう

咲いたとき太陽の方を向き

日陰に目をくれなかろうとも

僕は無償の愛情を捧げよう

そして 後ろから 黙って見ていよう

何も求めてはいけない

どんなささいな見返りも

 

僕はもてるかぎりの優しさで

希望の輝きを 高く高く持ちあげよう。

ああ無情なる時の流れ うつろい

できることなら 永遠に咲かないで

いてほしいという願いのむなしさよ!

咲いたら散ってゆくのだから

 

咲かないうちは 誰もつむまい

咲かないうちは、枯れることもあるまい

健全なる成長する姿だけを見ていたい

時は流れねばならぬ

されども 流れてはならぬ

 

わがはぐくみし

思いのきみ

美しく咲き誇れと

いつくしみて

摘まれんことを

嘆くとも

時の流れ

いかんともするかたなし



18.鼓動

 

恋ふかき思いの中のまたそこに

浮きては沈む あこがれの君

 

海よ お前には何でも話してきた

その大らかな広さと愛にあふれた深さに

僕の悲しみはあますところなく受け入れられ

白い波と清められた

 

されとて この思いばかりはどうしよう

あまりに重く魂の底に沈み重なってしまって

とても口までのぼってこれやしない

ああ 僕は骨の髄から恋の病にむしばまれ

かの女(ひと)への思いを固めこめて

生をつないでいるようなものだ

 

ぐさりと心臓を一突きしたら

海よ おまえの美しき青さとて

どす暗い赤に一変するだろう



19.捧げる

 

貴方を目の中に入れた日から

僕の目は貴方のものとなった

街ゆく美しき乙女子は

透明な顔でけげんそうに

通りすぎるだけだ

 

貴方を腕の中に感じとめた日から

僕の手は貴方のものとなった

美しき花びらをやさしくなぜ

頬づえをついたりする



20.Love is Blue

 

憂うつさにこれほど楽しくひたれるのは

恋の果実のあまくとろけるささやき

かの人以外何も見えなくなって

しまいには恋にかの人まで見失ってしまう

 

気づいたときは いつも一人ぼっちで

咲ってしまった花びらを数えているのだ

それはわびしく人の目にうつろう

 

ただ 本人はいたって真剣で

思いのほか楽しいのだ

悲恋にして終わった恋のみ

美しい押し花となる



21.In The Street

 

酔ったふりしただけさ

ちっとも酔っちゃいなかったんだ

そんなにも俺 

飲んじゃいないさ

飲めないさ

本音 叶きあって

おまえの本音に 

俺の本音

俺 嘘はつかなかった

ただ 叶かなかったのさ



22.崩壊する

 

僕は疲れてしまった

右手も左手も伸ばしすぎたため

右足も左足も抜けて

空中分解しちまった

 

頭だけやたら重くなって

支えきれずに背骨が

折れちまった

 

荒い土をかりて下さい

なぐさめずにです

地の中でゆっくりと

休みたいのです

 

二度とここには

戻りたくはありません

あまりに平和すぎる

この戦場



23.腹

 

落ち葉が腹の中を舞う

生まれ落ちて何年目か

いくら怒ってみても

我が身までも届かず

頭の中にゃ 舞うものもなし

 

うっとうしさやゆううつさ

けだるさややりきれなさ

実のないものばかりが

入っているだけさ

何もかもすっかりだしてしまったら

どんなにかすばらしいことだろう

 

でも 生まれ変わった僕は

同じものをまたつめこむだろう

それが進歩というものだ

それが成長というものだ

 

いやいや 頭なんぞ 腹なんぞ

割ってみたら

ゴミほどにきれいなものもあるまい

美しいものは肉体から

遊離させた世界だけ



24.あなたと僕が出会った日

 

あなたは僕のことを尋ねなくなった

あなたの瞳は僕の向こうを見ている

あなたはずいぶんおとなしくなった

あなたの主は沈黙を命じたか

 

あなたは自分のことを語るようになった

あなたの瞳は自信にみちている

あなたはとても美しさなった

あなたの主はざんげを受け入れたか

 

あなたが僕に出会った日

何かが心の中にうえつけられ

あなたが僕と話した日

何かが心の中に芽生えた

 

あなたが僕とつきあった日

何かが心の中に育ち

あなたが僕を見つめた日

何かが心の中でふくらんだ

 

そして つぼみは花となったか いや

あなたは蝶となって飛んでいった

主の御もとへ

 

あなたがいなくなった日

僕が死んだ日



25.依怙地

 

あなたはどうして僕を鞭打つのですか

僕が自分を大切にしすぎた罰ですか

僕も街ゆく恋人たちのように

夢の中で語らいたくもあります

そんな僕は 僕を手離さないかぎり

何も与えられないのですか

 

夢を見るには眠らなければなりません

その安らぎさえ あなたは奪ってしまった

僕はただ己れの手でつかむしかないのですね

いばらの道を選んでしまったのは僕

あのときは選ぶ権利さえ捨てることを

選ぶ皆が悲しかったんです

 

僕はいつでも依怙地で意地っぱりだ

二股の道にきたとき 自分の家の方へ

つきあわせようと我がままに

さっさと歩いていった

あなたを置いたまま



26.Fair Stage

 

僕は夢見る 僕の華麗なるステージを

僕の心の中の叫びが万感をもって

世界の隅々まで通じる日を

戻ってくる地を わらんばかりの拍手と歓声を

 

そして それよりも その中に愛に満ちたりた

人間たちの相互理解 一体感幸福が

実現という枠の中で 現実をぶちのめし

理想に手を伸ばす その一瞬の永遠性を

 

何と遠い日だ 声は枯れつきるほどにも出ない 

今 何と地道な精進が課されているか

されど 僕の生命受けしゆえ 

人は ただ ここにあり

 

さらば 進むしかない

ならば 明るく一歩ずつ踏みしめて行こう

道端のなずな一つ 見いだしに



27.尋ねる

 

ゆふらん ゆふらん ゆふらん

 

あなたに愛はないのですか

僕の愛がどんなにささやいても 動じない

あなたに 愛はないのですか

 

いえいえ 人を愛したことがありました

今のあなたのような情熱な目で

今のあなたのようなうらみごとを

言っていたときも

 

そんな人がいるのですか

それゆえ 僕の方の窓は開けない

そんな人がいるのですか

 

今のあなたはご自分の不幸せを

嘆いていらっしゃるけど

今のあなたほど幸せな方はおりませんわ

愛されることは気持ちのよいことですけど

愛することこそ 生命なのです



28.叫び

 

生ったるい夜よ 砕けてしまえ

一文なしの僕に

メランコリーな感傷にひたる糧もない

遠い貴方をおいかける気力もない

 

眠りを誘う気だるい太陽よ

水っぽいやみを干しあげろ

精神がボロボロになっちまいそうだよ

 

酔っぱらった人間よ くだをまけ

わが主(みこと)なるかたぶつの機械よ

怒鳴りちらせ

上気した太陽の陰で演じてみろよ

性を貧る恋人達 十字架にくしざしせよ

 

赤子よ わめけ 世界を揺らせ

地球よ 地割れ 夜を去らせ

新しい御子を君臨せしめよ

甘たるい夜よ 砕けちまえ



29.酔狂

 

そうさ 心の片隅でいいのさ

僕の面影とどめてくれるなら

僕は何も言わず満足するさ

貴方が僕の心からあふれでて

それをこぼすまいと僕がどれだけ

苦労しているか知らない方が 結局いいさ

 

初めからそんな気じゃなかったもの

ただ 僕だけ一人 のりすぎちまった

あなたのついだ杯に 度を越してしまった

いつになったら冷めるやら

冷めぬなら冷めぬで それまたいいさ

 

酒宴に生きて楽しかろう

ただ あまり酔いすぎちまって

あなたを送れぬようになっちまったね

さようなら



30.愚痴

 

恋心は誰もあずかってくれない

夢よりもさびしいあなたをほかに見ていた

 

そうさ 俺には一人が似合うのさ

あんたを手に入れたらそのとき

俺は おしまいさ

 

放浪して 帰ったときにゃ

あんたは 手のとどかぬ人に

きっとなっているだろう

 

女の花っ咲かりも短いものさ

何も文句はつけないけど

幸せになれるだけ なってくれよ

ああ 腹の底から 疲れちまったよ

 

やりきれない

やっぱり やっぱり やりきれない

わかっていたじゃないか

覚悟していただろう

 

ブーケをつけた あなたを見た日



 

Vol.10-2

詩Vol 10−2  41〜65  12/5

 

詩Vol 10−3                12/10

 

41〜88  12/5

8800




41.待つ



僕は待つ

ただひたすらに

遠く思いうかべる

君を待つ



たとえ君の心に

はや 僕は消えうせ

君が 僕の見知らぬ男を

慕っていたとしても



僕は待つ

ただ ひたすら

遠く思いうかぶ

君を待つ



よしや 君が

僕の心にかなわぬことになろうとも

僕は僕なりに

精一杯己を

君にふさわしく高めていこう




42.感謝



君に会えた

君と過ごせた

君に触れることができた

これだけで 僕は

生まれてきたかいがあった

これだけで 僕は

天に感謝せずにおれない



ああ この世に君が生きている

同じ東京の空の下

同じ時代

同じ空気をすって

君が生きている

何と すばらしいことなのか



ありがとうよ ありがとう

僕の心の中で

永遠の神となって

君は生きつづける

僕の全ての行動の

規範となる



ああ これ以上 望むまい

迷惑はかけまい

君には君の人生がある

君には君の幸せがある

それが僕に一致せぬからって

何を恨もうか

これほど愛しているからに




43.とほほ・・・



僕の世俗に油ぎった心が

あまりの泥くささに嫌気がさし

ときたま そこから すっきりと

清浄になるとき

僕の心の中に

いつしれぬ 舌をただよわせ

浮かびあがっているのは

貴方

二度と人など愛すまいと

あれほど思わせた

貴方

今も僕の最も 深い所にいて

僕が最も高まったときに

必ず出てくるとは

とほほ……




44.主人公



なるほど

こういった悲劇の主人公になれるのは

古来 万人の有する権利だなと 言ってみたり

それにしても 俺のは 全く異例だ

失恋の上に失意重ね それでいて

さらに 失望しようとしている

同じ相手になどと思ってみたりしている

万一も報いられる確かなことへの

努力ほど哀れにて

美しきものはあるまいよ

悲しきことはあるまいよ

自分をやめたくなるほどにつらいものよ

奔走すればするほど 早く破綻がくる

まあ ゆっくり いこうよ

ととりなしても おさまらぬ心

片恋は 破れたのちまでつらいものよ




45.恋と友情



僕は最も高価な悪をしてしまった

僕の全存在を賭けて張った

かなう見込みのまったくないものに

ちょっとした心の気まぐれから

目を向けたのは あまりに僕の罪だった

 

うわべをつくろい つくろい

悪を隠し 有益な友情の名のもとに

たとえ どうなろうと近づけになれればと

知ってのことだった

 

真実は いつか日の元にでる

僕は 恋と友情の間で苦しんだ

自分にも どうだかわからなくなった

人生において 恋を超越するもの

おたがいを高めあうものがあったから

 

僕はその名のもとに恋した

貴方も その名のもとに僕を恋した

そして うわべたけのつきあいがあった

 

そうこうしているうち

貴方は僕の内面を食しはじめた

僕の真理そのものに化け

僕をあやつりはじめた

 

そして 本音の貴方は

僕を冷めたくつきはなした

ああ こんなことがあろうか

貴方に指一本ふれられず

それどころか 姿も見られず

僕の心は そのままに動かされている

恋はむくわれまい

しかし 僕はその恋の名において

生きねばならぬ 逃れられやしない




46.信じること!

 

信じている

心の底から信じている

だから 待つ

待ちつづけている

それがつらいのは

なぜか

僕の心の庭が

貴方が入ってくるのに

ふさわしいほど

清められていないからだ

 

信じている

永遠の真理よ

僕は精一杯 心の庭を

掃き清めて

一日たりとも怠らず

歳月は ますます 貴方を

遠くやってしまうようだが

僕が 真っすぐ地平線を

みつめているかぎり

貴方がこちらに

歩んでくる日がきっとくる

 

だから待つ

どんなにつらくとも

愛する価値が

あるかなんて

愚問だ

僕の心ほど僕にとって

真実のものはない

理性よ くもらすな

僕のあの人を



47.美しいねえ

 

貴方という 精神の支柱があるため

僕はどんなにか 

強く生きられることか

僕らは二人でいても

お互いに一人ぼっちだったけど

別れてみたら いつも二人だ

 

余計なものが全てとれちまって

ただ純なる二つの魂が

たがいに触れあう

 

美しいね ええ

貴方は この僕の幸せに

もはや気づかぬだろう

 

恋する気持ちを

昇華してみても

根底に流るる 木なる思いは

なんともなりゃせぬ



48.恋死

 

君から返信がきた

やはり 君は 

それだけの人だった

 

僕の心にメスを入れ

ひどくうすく

貴方を思う心を 

切りとったら

僕の生も止まった



49.ロバと少女

 

少女がロバにのって

原っぱに行った

花畑をみると少女は

ロバから降りて こういった

 

私が戻ってくるまで

ここから 一歩も

動いちゃだめよ

 

そして 少女は

かけていった

遠く 遠くまで

かけていった

 

日が暮れた

少女は帰らなかった

ロバは忠実に

命令を守った

 

少女が天の国について

まもなく 

ロバも少女のところに

たどりついた

 

少女はいった

だめじゃないの

じっとしているって

いったじゃない



50.どんぐり

 

おや おや

どんぐりを拾いあつめているのは

子供たちじゃないか

 

どんぐりがころんころんと

気高い木から 落ちてくる

 

風にゆれるたびに

ころんころんと

 

これほどがっちりした木にも

悲しい心があるのだろう

 

涙の粒を拾っているのは

子供達

 

笑っている 笑っている



51.背中のかご

 

人間は歩いた

背中に大きなかごをしょって

一歩一歩 めざとく 

自分のためになるものはないかと歩き

見つけるやいなや

何でも 背中のかごに入れた

 

振り返ることもせず

休みもとらず

ただ ひたすら入れつづけた

 

まだまだ かごに入ると思っていたとき

かごは もはや いっぱいで

形はゆがんでいた

 

それも知らず

重いことは いやというほど

体に感じていながら

人間はかごに入れるのをやめなかった

そして 今 かごに押しつぶされ

もがいている



52.戻りなさい

 

雲のむこうには

何があるって

 

そう 明日の世界が

あるのですよ

 

朝霞の中に

昨日はうもれてしまったのですよ

 

いいかげんに

道に戻ったらどうです

 

そんなあぜからでは

人の横顔しか見えませんよ



53.Last Voyage

 

船長は 港を歩いていた

つかの間の 地のあたたかさを

たしかめるかのように

波上できたえられた

強じんな足で 歩いていた

 

船長の足どりには 何の無駄もなかった

一歩一歩が 意味を持っていた

そして 歩いた

その距離だけ 確実に 船に

近づくのだった

 

船長はすごく落ち着いていた

海の男の持つ荒々しさを秘めた

顔はときとして 

非常なまでに優美であった

 

自分の船を 見るとき

船長の胸に情熱は

最高潮に高まるのであった

 

潮の香りが強くなった

船長はたばこに火をつけ 一服吸った

このたばこが捨てられるのは

沖を出たところであろうか

 

太洋に浮かぶ 一本の吸いかすも

この船も何の変わりがあるだろう

巨大なる海に無力なのだ

ただ 海の意のままになるか

それを逃れるかだけなのだ

 

沖合でタバコの吸殻は 大海におちた

ゆらめく海面がそれをのみこんだ



54.モーゼ

 

僕の前に海はさけた

天は命令した

迫ってみなさい 一人で

ふりかえってはなりません

貴方には 向こうにいきつくだけの

生命しかありません

 

左右の壁に

幾多の先人たちの魂が

この道を歩み

力尽き没した

魂が

見守ってくれます

歴史が

貴方をささえてくれるでしょう



55.罠

 

うさぎは 穴をみつけた

まわりからのぞいていた

真っ暗なので見えなかった

折しも地上の生活に

おびやかされ びくついている

うさぎであった

よくよく考えた末

そこに飛び込んだ



56.少女と花

 

少女よ

摘んでいる花に 小さな顔を近づけ

陶酔する少女

 

それは自然がつくった

造花なのだ

 

あまり近寄ってはいけない

酔うほど 苦しくなる

大人になることは

 

少女よ

いっそう その花のトゲにさされて

眠ってしまえ 永遠に

その顔のまま



57.釣り

 

つり針を胃袋の中にたらして

僕をひっかけようとした

「えさ」はいらぬ

罠もいらぬ

貪欲きわまる奴だから

やたら 変なものが

次から次へと釣れた

 

僕によく似たものもある

さして 値打ちのないものばかりだ

よく これだけくだらぬものが

泳いでいるものだ といいながら

ずいぶん釣りまくった

 

そして最後に 僕が釣れた

今までのものの中で

最も貧弱なものだった



58.夜の宴

 

底冷えのする こんな夜は

貴方と両手を組みあわせ

ゆっくりと談笑したいです

 

もう おやすみになりましたか

お月様が湯上りのように

ぽーっと艶美ですよ

静かです

 

僕の一言が

闇をいともたやすく切って

貴方の耳に入りそうな

気もするんですよ

 

だって ほらね

貴方の寝息が 僕には

聞こえるんですよ

貴方に会いに行きましょう

 

眠るには惜しい夜だけど

貴方はきっと待っておられる

眠るには惜しい夜だから



59.出会いと別れ

 

初めて通りかかったときは

まだつぼみだった

さして 気にもとめなかった

それがいつからだろう

その一挙一同に僕の全神経が

否応なく配られ

 

毎日 君を見ないと安心できなくなったのは

君は 気づくこともあっただろうか

君は そんなにも自分を見ている

熱い視線は うとましかったのか

 

君は 何よりも自由に生きたがっていた

君は 愛というものを全く知らなかった

僕は そんな君を忘れようとした

いつしれず 忘れたつもりだった

 

しかし 君は

僕の意識の中で開花した

何よりも美しく匂わしく

 

そして 僕は その幻影に恋をした

あまりに清らかな恋だった

精神の最も崇高なるところの恋だった

真理への思慕だった

 

そんなある日

僕は何気なしに

思い出の道を歩いていた

そして 思い出の場所に

見つけたのは

今にも 花開こうとしている

君だった

 

君は自由を貫いていた

君は愛することを

愛されること以上に

知っていた

 

しかし君は 真理を知るには

あまりに 幼かった

君は 僕を愛するには

あまりに 純真すぎた

 

君を愛している 誰よりも

だからこそ僕は

君を摘みたくはない

僕は静かに 立ち去った



60.レンゲの首飾り

 

まわるよ まわるよ

水車がまわる

 

ながるる ながるる

レンゲの首飾り

それが欲しいと

あなたが笑う

 

ながるる ながるる

レンゲの首飾り

それが欲しいと

あなたが笑う



61.流れていった

 

日の光とともに

くみあげられた

キラリと光った

 

まぶしい 見失ったよ

川下に流れていると

あなたが手をひく

かなり足らない棒をもって

僕と追う

 

苔が輝いている

あぶないわ

それなら 僕が支えていよう

 

君に棒をわたす

僕は自分の力が

足ることを信ず

貴方は僕の力を

信じればいい

 

あっ 行っちまった

いいのさ いいのさ

あのままどこか

旅していくから

僕らはにぎりあった

手を見つめていた



62.砂地獄

 

砂がまわりから くずれてくる

生き埋めか

首だけ出して

誰もが笑っている

 

目覚ましを壁にぶつけた

時間はとまった

壁はやぶれたが

ひびも入っちゃいない

 

そうさ 天に太陽はみえるさ

夜には、月もみえるさ

わかりきっているって

見たことあるのかい

それでいて笑っているのかい

 

平和な奴だよ

そのまま 頭まで埋もれるものも

運命か それさえ 考えまい

毎日流れてきたように

流れていくんだろうな

 

ああ いやだ いやだ

ぬけだそうとすればするほど

もがきくるしむ

砂地獄



63.3つの宝

 

若さ 若さ 若さ 若さ

情熱 情熱 情熱

愛情 愛情

 

これだけだ

これ以上何を望もう

これを充分使いきったとき

何かが生まれる

 

これを充分使いきらなかったら

僕は大切なものを失う

維持や保守 そんなものはない

貪欲に得るか

堕して失うか

二者択一だ

 

時の流れは道だ

失うなら 流れに身をまかせればよい

上限に辿りつくには

全力で一瞬の融予もない

1年の努力が1日で流れる

 

だからこそ尊い聖域だ

ゆけ 何もなくてよい

あふれるほど おまえは

三つのものを待っている

だけじゃないか



64.傘

 

あなたの傘に 雪がふりつもる

あなたの赤く かじかんだ手は

しっかり しっかりとにぎっている

心の底まで凍てついて

あなたの目にもはや

熱はたぎっていない

 

僕に傘をお渡しよ



65.ピアニスト

 

あなたは あなたの

キャシャな手のかもしだす

ピアノの音に

あなたは酔い

天に舞う

天に舞う

 

待ってくれ

置いていかないでくれ

 

あなたはそんな声を

聞く耳も持たない

 

僕は精霊を

あおるだけ

それだけ あなたが遠くなる

みつめているより 他はない

 

調律師 人生のゆがみをなくす

されとて 弾かれるか

このピアノ



66.舞台

 

所詮 舞台の上さ

いかに演じるかだよ

神々の観客を楽しませる

奇抜な独特な演技がうけるのさ

 

役者になったって

小道具になったって

横たわっておれるかよ

主役もいれば 脇役も

エキストラもいるさ

 

各々にとっちゃ自分が主人公さ

自分を精一杯演じるのさ

聴衆は素直な奴には寛容さ

害はない

 

それを 何を早とちりしてか

観客の望まぬ演技をしたがる奴がいる

そんな奴は早めに手をひかれ

あがきゃ 幕のうらに引きずりこまれる

観客席に落ちるのさ

 

よかれあしかれ、上演時間内は

定まっている 筋書きはないのさ

つまらなくなれば 降ろされる

そのときまで 精一杯演じるのさ

 

神々のひまつぶし

とんだ迷惑なひまつぶし

時間も空間も限られた

悲劇も喜劇も思うがまま

おもしろければ それでよし



67.切符

 

自動販売機に

コインを入れると

切符がでてくる

行きたいところに

行ける切符だ

 

帰りは帰り

その駅の

自動販売機に

コインを入れると

切符がでてくる

 

僕は朝70円の

切符を買い

夕方70円の

切符で帰ってくる

財布の中の

わずかなコインで

切符が手に入る

 

何の変哲もない

ある日の帰り

僕の財布には

70円しか入っていなかった

よくあることさ

70円が問題だ

 

僕は、何の疑いもなく

自動販売機に

70円を入れた

 

70円をくった

自動販売機は

肝心の仕事を

サボタージュした

 

事態の深さが

しだいにのめてきた

僕はメシにもありつけず

やみは暮れていく

 

歴史の流れにとりのこされ

荒野の無人

歩けども 歩けども

線路は長く まっすぐ

 

そうしたうちに

疲れちまって

線路と並んで

寝ちまった



68.待ち伏せ

 

門の前で僕は待っていた

今日こそ貴方をつかまえて

僕の愛をうちあけようと

 

押さえきれぬ情熱は

理性をつきとばし

日の出前の

貴方の家の木立に

僕を押し出した

 

冷たい夜露も

僕の情熱の焼け石に水

不気味なこうもりの忠告も

僕には 馬の耳に念仏

貴方が安らかに眠っている

あの二階の窓を

僕の思いは遂げねども

月夜の光は入らない

 

太陽を何とか かつぎだして

空をこんなにあかるくしたのに

静寂はやぶれず

白々した空が 僕に

羞恥心をうえつけた

それでも何だかやけくそぎみに

今日こそと 僕は待っていた

 

そのとき そんな僕をからかうように

美しく大きな蝶が貴方の家から出てきた

僕は何だかしらないけれど

何もかも忘れて

その蝶を追いかけて行った

 

そうして 広い広い原っぱで

蝶を見失ってしまった

急いで帰った僕の目に

映ったのは

貴方が とある男と

歩いていくところだった



69.詩人

 

どれほどの待人だって

生きつづけることはできなかったからって

人生誰しも死ぬとは限らない

 

生きることだけ専らにやっていりゃ

その道で飯が食えるさ

生きつづけられるだけで

何にも増して偉人さ

それほどの偉人がでなかっただけさ

 

人をたくさん殺したり だましたり

ありとあらゆる 欲望を露わにしてきた

ちっぽけな偉人達

 

いや 偉人はいたかもしれない

それほどの偉人なら

こんなゴミ箱の中で暮らさないからな

ひっそりと月の世界にでも

別居しているのさ



70.小石

 

よけいなことばかりして

失恋しちまった

腹立ちまぎれに

蹴った小石が転げて

道端のこまれた小石によりそった

またよけいなことしちまった



71.なびけ

 

隣にすわっている 君の髪が

気まぐれな風のおかげで

僕の方になびいた

なびけよ なびけ

君の心を

僕の方になびかせろ

気まぐれなものよ

やってこい

やってこい



72.痛み

 

幼い日の僕は

痛くない 痛くないという

言葉の魔術で

精神的な痛みはおろか

肉体的な痛みも

忘れることができた

 

それが恋したころから

精神的な感覚は

肉体的な感覚になり

ずっと深くなってしまったのか

 

恋 この甘美な魔物が

胸の内部からえぐる痛みといったら

サーベルで何突きしようが

比べものにならない



73.浜辺にて

 

灼熱の太陽よ

我身を息づかせ

焼けた砂よ

あますとこなく

精気を奪え

骨も皮も残すな

魂だけに

純化せしめよ



74.昼下がりの決闘

 

泳げない飢えた猫が

水面で呼吸しなきゃいけない

金魚をじっと見ている

 

真昼の池の

戦闘極まる刺しの勝負



75.臨終

 

白い布(きれ)をのけてください

息ができません

魂が上っていかれません

微笑んでいてもやりきれません



76.救い

 

崖の上に立った

人生の底を見た

気が狂った

それで飛び込まなかった

 

花を切ろうとむしろうと

踏みつけようと

かまいませんけど

二輪だけ残しなさい

さもなくば

一輪も残さぬように



77.リンゴ

 

僕がキリリと絞った矢は

天使の食べていたリンゴに

あたったものだから おどろいた

天使は真っ逆さま 枝から落としてしまった

ずいぶんリンゴを食べてやがったな



78.別れ

 

手紙の最後に

サヨウナラと

書いたのを

貴方は好意的に

解釈しちまった



79.眠らない男

 

眠ってしまった夜の街を

眠れない男が歩いていた

 

一日の歴史を静かに閉じた街で

そこからはみだした男一人が

明日こそきっと尋常の生活に

戻ると思いつづけながらも

ここまできたからには

 

よくよく ウマがあわない人だと

このごろやけに悟りが早くなって

眠らない男になっていった



80.風

 

からっ風

砂ぼこり 砂塵

味っけない

枯葉が舞う

 

誰もが通った白い小路を今

行くのは誰

時の悠久なる流れの中に

空間の限りなき孤独の中に

 

若い力をうたったのは

まだ若さをさずかる以前

 

そう 十幾つのころから

今 二十にいたるまで

思い出すことはなかった

頭の遠いところに

残っていたのか ぼやけながらも

わけも分からず 歌っていた

 

無垢の日々が

ようやく今 形をとりはじめる

まるで空白だった

青春をうずめるかのように



81.日本の国の行方

 

日本がうすっぺらになって

突風で裏返ってから

ボロボロの 日本をつくって

詩人は唱いつづけた

 

ガッシリとコンクリートで固められ

堅固になっちまった

日本はあぐらをかいている

揺れ動く大海に目もくれず

鼻をつきだしている

 

さり気なく 詩人は唱うのをやめた

無知なる ここの恐ろしさは

強がりより 傲慢の比でない

過ちは くり返されるのか

 

今度はもっとさり気なく

それだけに恐ろしい カチカチの日本が

こっぱみじんになっちまう

静かに 静かに

外圧と内圧が不自然に

加わっている

 

人の噂も75日の

情熱的に浅薄な国

何ら不自由のない

わがまま勝手な

解放されたものが

自由を主張するとき

国は滅びる



82.備え

 

熊や虎

キツネやタヌキが

やぶから じっと見ている

ネズミは 有頂天

大きな敵のいることをしっていても

いざとなりゃ

少々わけりゃなんとかなると

米粒をたくわえて

かじっていた

そして やっぱり

飢餓がやってきた



83.鐘の音

 

寺の鐘の音は

一つひとつ 違うのです

それを聞く 人間も

一人ひとり 違うのです

 

なのに 人の心には

ものしずかな清浄の光が

さしこむのです



84.認める

 

認めなきや

認めなきや

 

人を人と認めなきゃ

貴方がたとえ

奈落の底まで

落ちてしまっても

僕は愛の名においてでなくて

人間の名において

貴方も両手でつつまなきゃ

 

認めなきゃ

認めなきゃ

 

愛は ただのエゴ

貴方を幸せにする前に

目の前の人々皆に

手をさしのべるんだ

 

どんな人も

生きている

つっぱりは捨てよう

 

現実逃避だって

どこへ行っても

現実は立ちふさがる

飛び越えるしかない

限りなき なわとび

 

疲れたなあ

生きたもんな

 

実行するかしないか

所詮それだけの差



85.夢

 

よくよく考えてみれば

やっぱりあれは 夢だった

そんなにうまくいくものかと

いつも いつも 思っていた

 

それがまた あまりにうまく

いったものだから

一ペンにばれちまった

それでいながら

 

思いやしなかった

いつも夢だと気づいたとき

目がさめて それっきり

朝まであなたを 恋したい

 

そんなくりかえし

どうやらやっとかしこくなって

僕は眠りつづけた

朝までずっと あなたがそばにいた

 

そして もしやと思った瞬間

わかっちまった

よくよく考えてみりゃ

やっぱりあれは 夢だった



86.安息

 

ああ 今夜も僕を寝かせぬものは何か

人は努力するかぎり迷うものだって

それなら 努力もやめたいな

僕が欲しているのは 安息

僕を駆り立てる 生の意匠

安息は遠い遠いとこに 横たわって

僕は横目で誘っている

ああ 何と魅力に富んだ輝きか

 

ああ 今日も僕はこの苦しみに

耐えねばならぬ 夜明けまで

若さが不死身である間

頭は体を休めやしない

それが体に悪いことだと知っての上で

安息との距離がいとわしい

遠ざかれば苦しみ

近づけば 若さが反発する

 

いっそ覆い隠せないものか

否 僕の努力もまた

安息すべき位置を求めんがため

ありうるものだから



87.I’m dream

 

僕は幼児に憧れる

悪に怒り正義にありたいと願い

ちょっとしたことに 感激の涙を流す

誰に気がねすることなく 自分も生き

正しく思ったことは 行動にうつす

でも こんなときもある

臆病で無気力でぼんやりと

夢見ようとしているとき



88.めがね

 

僕がめがねをかけた

君は笑った

カラカラと

僕はめがねをはずした

君はまた笑っていた

カラカラカラと




89.二十歳

 

無邪気な十年のあと

無意味な十年がすぎ

それを意味付ける年月となった

 

90.はげ

 

人生の摩擦

こんなにも

神神しく

光沢に刻まれた歴史




◯こぼれ言の葉

 

エメラルドの海に

サファイアのうねり

 

あれ あれ

浮かんでいるのは

雲母の帆掛け

悲しくて 真珠の小船

海に沈んでいるのは

いつも石ころ

 

帰郷

郷愁

怪物君

サンダーバード

鉄腕アトム

鉄人28号

 

灰色の時代が過ぎ

黒い時代が過ぎ

ねずみ色の時代が過ぎ

いぶし銀の時代が過ぎ

白い時代がやってきた

白―何と恐しかと

このカマトト

 

淋しさ

 

私の目は魚の目

海の幸をとりこぼす

さてさて 人魚たち

いるなら

お返事してごらん

 

教授殿

教皇一つ手中に

おさめられずに

研究だ 論文だ

教授とは

よく言ったもんだ

momoe

百恵ちゃんの

ステージを

今こそ 見習たまえ

 

ごきぶりよ

一人者を気取るのはいいが、

えじきになりたくなきゃ

団結してやってこい

 

恋人よ それが本当なら

恋人という

プラカードをあげる必要があろうか

Vol.10-1

Vol.10

 

1.恋心

 

君が気まぐれに 振り向くからいけないんだ

僕を思っているわけじゃないって 知りすぎているけど

一抹の期待をしてしまう

何度も 裏切られ 胸を引き裂かれ

心きしみ 痛み感じぬほどえぐられ

 

それでも愚かな 我心

それでも愚かな 恋心

 

抜け出せぬ無限地獄

僕の世界で貴方が大きくなり 

僕は貴方の心の一部となった

 

それなのに それなのに

貴方は僕の胃をよじるばかり

 

何もかも捨てたくなった

あいつに捨てられ こいつに捨てられ

こんなに捨てられちゃ 未来まで捨てたくなるよ

 

捨てられ続けて 拾ってくれる人もなし

そのたび悲しい思いをする 

偽りの世界 もう何もかも捨てたくなった

 

こっちから捨ててやる 大事にしすぎるから

待ちすぎるから 僕の人生なんて

捨てるだけの価値もないのさ

 

でも 誰も拾っちゃくれやしない

いや 僕に捨てられるものがあるのか



2.おぼろ桜

 

もう散っちまったよ

なんて悲しいだけの 人生なんだろう

桜をはかなく思ったのは 昔のこと

今ではひととき咲ける 桜さえうらやましい

もう枯れちまったよ

なんて寂しいかぎりの 青春なんだろう

 

早く朝になれ 明るい朝になれ

そして僕を安心させてくれ

明るい光で勇気づけてくれ

暗く静かな夜は耐えがたい

今の僕の心にそっくりだから

 

目のやり場がない ますますつらい

君の影が おぼろ おぼろ

ああ 情緒的な 夜よ去れ

希望だけが残る 朝となれ

一刻も早く 一刻も早く



3.うそ

 

うそつきはいけない

自分にうそをつく子が

一番わるいじゃないか



4.虫ケラの心

 

私の命を託した手紙

待っても 待っても 返事がこない

貴方は まるで虫ケラのように 私を無視する

そんな虫ケラにも これだけ苦しむ心があるのを知って

貴方にとっては他人事 特別の人にならないかぎり

 

人間社会の掟て その地位をめぐって

私は耐えに耐えた もともと報われるなど

思ってはいなかった でも運命って気まぐれ

少しぐらい狂っていい こんなに正確だなんて

 

時は流れ 貴方が流れ

私の心も壊れてしまう 

壊れないのは,時

壊れちまったのは 私の心

貴方は今もどこかで笑っている



5.ガラスの向こう

 

近くて遠いもの ビルの8階

ガラスの向こうに キラめく

 

僕は小さい時から

思いのままにならぬことはなかった

少なくとも相応の努力があれば

何でもものにできた

 

ところが 貴方の心だけは

何ともできなかった

どれほど 愛せばいいのだろう

永遠に見返りのない愛

果てしなく尊い 貴方の愛だから



6.星をおとした

 

財布が立派で

お金が入っていないと 人は笑うけれど

僕のお腹にも 何も入っていない

財布が 立派なら いいじゃないか

 

体中に 力がたぎっていたから

声をたたきつければ

あの星が おちるような気がした

 

それで そうしたら 

本当に 星がおちてしまった

 

僕はやったとばかり

かなり疲れた体をおこしたら

おとしたばかりの星が

光っているじゃないか



7.春風

 

なぜかしら いつの日か

名簿をさりげなく 見たときかしら

私が あなたの誕生日を覚えたのは

 

なぜかしら いつの間にか

忘れてしまったはずの 

貴方の誕生日が近づくと

 

私の胸に浮かぶのは…

思い出をこめすぎた

春の風の匂い



8.星をつくる

 

果てしなく 広い宇宙に

たった一人の私

 

どこかの星からか さまざまの感情

喜び悲しみ怒りが 星の雫のように飛んでくる

 

私は寂しさまぎれに それを一つずつ

手が届くかぎり 拾いあつめる

 

そして 手の中であたため 愛に変え

丸い 丸い 星をつくる

 

愛が冷めないうちに くるりと回して

今度は どこに置こうかしら



9.四季

 

あなたは春霞の中

朝つゆ光るレンゲ草を

小さな胸もとにつけてあげた

桜散るとき 手をつなぎ同じ門をくぐった

 

真夏の灼熱けた太陽下

久々に会えて 浜辺をころげあった

修学旅行は秋の日の紅葉が滝に

舞っていたとき 二度見かけたあなた

 

そして今 白い雪の華やかさに

冷たく凍えそうな 僕の心に

ほのぼの浮かんでくる

取り戻しようのない あなたとの想い出



10.悪魔と人間

 

悪魔のおせっかい 哲学者が言った

頭が割れるように痛い 悪魔が言った

ならいっそ割ってやろうか

いやいや そんな気がしただけた

 

恋愛情熱家が蘇った

胸をえぐられてしまいたい

悪魔なら

いっそ剣で刺してやろうか

詩人は興ざめて言った

いやいや そんな気がしただけだ

 

悪魔は結論を下した

人間には耐えられぬ

もうだめだと言いながら

いざ つきつめりゃ

自分で思っているより

はるかにしぶといんだから 世話ねえや

苦しみをオーバーに楽しんでやがる

恐ろしきものは 人間だ



11.亡霊

 

去ったのは貴方だ 諦めたのは僕だ

徹底的に愛した報いに 傷だらけになり 過酷なまでに

わずかな甘美ささえ知らずに痛めつけられ

嗚咽をもらしつづけたのは 僕じゃないか

貴方はどこ吹く風とばかりに 僕の横を通り過ぎて

幸せそうに誰かを愛する

 

僕はどんな女(ひと)をみるときも

その後ろに貴方の亡霊を見てしまう

貴方に対するうしろめたさ

新たに現れる女(ひと)に対する罪悪感

僕が何の罪を犯したであろう

愛は 一回きり 使い捨てのものなのか

静まれよ 亡霊 我身より永遠(とわ)に!



12.一瞬

 

貴方の心は 閉ざされて

僕の入るすきまもない

なら、僕は そのとりでの

命の根を止めてやる

 

そのとき一瞬

 僕は

貴方の意識に入り込むだろう



13.東京

 

東京に

会いに行きたいと

思えど

東京は遠くて近し

貴方は近くて遠し



14.目覚めたのは日の暮

 

出かけりゃ

金が要る

腹かすく

だから

僕はまた目を閉じる

 

やることもなけりゃ

金もない

女もいない

行くところもない

 

あまりあまっているのは

時間だけ

僕が自由に使える

唯一のもの

何もせずにも使える

大切なもの

 

だから 僕は

有効に使うため

また 目をつぶる

 

下宿 四畳半 秋の風

今日もはや 日が暮れる

 

やたら生きて

毎日が面白かろう

はずないさ

幸せなんて

道におちている

十円玉のようなもの

探したところで

見つかるもんではないさ

歩きつづけりゃ

そのうち 転がっているさ

 

それでも注意深く

一歩二歩 歩いた方が

見つかるだろうって

ハハハ

そんなことしてりゃ

空から鳥のくそ

落っこちてきて

当たってしまうか

電柱にぶつかるのがオチさ

 

思いわずらう ひまがあったら

外も歩いてみるのさ

何も考えずにね



12.寂寥

 

さびしいかい さびしいよ

甘ったれんじゃないよ

人間ほど ごみごみしているものはないね

自分の心を閉ざして

自分のさびしさ 分けあっている

何をつっぱっているんだろうね

急に気むずかしくなったり 気落ちしたり

元気を出したと思えば 気分をこわす

おかしいね おかしいよ

 

黙っているんだよ 人間ほど

みじめに肩をすぼめているものはいないね

あんまり うらめしそうな目で 

みつめるんでないよ

あの野郎にや ろくなものはないし

関わった日にや ろくなことはないさ



16.子犬

 

僕がいじめられっこに いじめられ

涙が渇くまで いくとこもなく

公園の水飲み場のまわりを

いったり きたりしていた

うすぎたない 小さな犬が僕の足元に

まつわりついてきた

 

僕はなんだか 腹がたって

いじめっこになった 子犬をけっとばした

子犬は痛々しげに たちあがりながら

きょとんと僕を見つめ また よりそってきた

 

僕が何となし 後ろめたさを覚えたときには

足は前より幾分強く 蹴っていた

でも子犬は 逃げなかった

憐れみを乞うように 僕をみつめていた

 

僕はいじめられっ子に戻っていた

この子犬 僕なんかより

もっともっといじめられてきただろう

いじめることなど知らないだろう

 

それなのに 何でこんなに

優しい目をしているのだろう

自分の無力を知りつくしているからか

 

僕は子犬を抱き抱え なでてやった

そのとき やっとわかった

自分を迫害するものさえ 信じ愛すること

この子犬は愛すれば

愛されることも 知っていたのだ



17.ビールがまわる

 

ビールがまわる

テーブルの上に

ビールがまわる

 

なごやかに雰囲気は盛り上がり

快楽を妨げるものは

今一時 全てを忘れて

幸ある麦酒に口をつける

 

一気に飲もうと 少しずつ飲もうと

とにかく不幸の解毒剤を

誰も熱心に 飲んでいる

 

ビールがまわる

誰もの体の中を

ビールがまわる

世界がまわる



18.世の中

 

世の中のこと 何もかも

あたりまえに思える

平和な世の中

恵まれた時代

 

でも世の中は 何もかも

狂っている

あたりまえに見えるだけ

真実はなく 偽りなり

 

神よ

厳かな

いかわしい衣を着

立派な髪をあごの先まで

とがらして

そんなに気取るなよ



19.青いリンゴ

 

待ちなさい

そのリンゴをとるのは

まだ青すぎるのです

 

青いリンゴは とっちゃいけないと

いえ でも そのリンゴは赤くなるまで

待たなければなりません

 

どうして 赤くなるのかしら

さあさ わかりませんけど

 

誰かが自分のことを思っていると

若々しい心が敏感に感じとって

耳元まで 真っ赤にそまっていくのでしょう

 

リンゴも恋するの おかしいね

見ず知らぬ相手に 食べられちゃうのにね



20.白いヴェール

 

僕の魂は ベットを離れ

森を散歩しにいった

ちょっとした気まぐれに

 

そして そこで出会った

白いヴェールにつつまれた

やさしい微笑の乙女たち

 

僕らは踊った 夜の盛り

月を照明係に

星が夜空にミラーボール

森の木々が歌っている

 

何とも軽い乙女の

足は宵を舞うように

白いヴェールも翻る

 

風邪になびくその髪は

時たま僕の頻を打つ

やさしく軽くくすぐったく

細い指は 柔らかに僕の手に添う



21.ヴェールの乙女

 

ゆらら ゆらら ふんわりと

まるでヴェールを風ですくように

乙女は自由にはねまわる

 

いつの間にか足もとの大地は消えて

うっそうとした森が

下に小さく見える

 

僕は両手を二人の乙女にひっぱられ

くるくるくるくる踊りながら

天に上る 高く 高く

 

森の散歩

いつも地上で乙女らの帰るのを

あんぐり見張る役の僕も

とうとう空へ舞いあがった

高く 高く 天に上る

乙女の微笑みのなか



22.少女

 

少女よ そんな目で見つめられると

胸の鼓動が あらわに高まり

額に汗がにじんでくる

息はつまり まわりは極度の緊張状態

光がお供し 一瞬にして消える

さあ 胸一杯にとどろかせよ

ずしんとした鼓動を 

この体全体 あますことなく

君のまなざしは 放たれた

一片の思いを逃すことなく



23.無謀

 

太陽よ

なんて赤裸々に燃えるのか

今 落ちようとして

一段と大きさを増した 

お前の胸に

俺はナイフをつきたてて

その場に止めておきたい

太陽よ 闇の中に放って置かれる

(でも刺さねばならぬ)

俺の悲しみがわかるかい

 

おお

空のかなたより

我を呼んだ太陽よ

どうしてもお前に会いたくて

無謀にも空に飛びたった

俺は すぐさま海におちた

 

そしたら何のつもりか

慈悲深い太陽よ

お前は水平線の

果てまで降りてきてくれた

 

どうしても お前に会いたくて

無謀にも泳ぎつづけた

俺は お前が海に没するやいなや

波にのまれちまった



24.砂

 

掌から

こぼれおちる砂を見て

彼の待人は嘆いた むなくそわるい

いっそ口の中にいれちまえば

渇いたこの砂が

どれだけ軽いかがわかっただろうに

 

拷問は続けられた 灼熱の太陽に

僕の体は骨まで ぼろぼろに風化しちまった

砂浜の砂の中には 白い粒があるだろう

光っているのは 貝のくだけたもの

鈍く白いのは 去年の夏

泳ぎにきた 僕のなれ果て

 

海を蹂躙していた 僕の目に

ひとしぶきの波が入ってきたとき

僕の体は 丸太になった

波のなすまま 浜にうちあげられ

誰かと思うまもなくさらわれて

 

波に打ちつけられ

うずまく砂にこすられて

僕の肉体は徐々に 崩れていった



25.祝福

 

あなたの愛に注いだ分、

あなたは あらん限り

誰かを愛すのです

 

それほど その人にとって

苦しいことはないです

いくら苦しめてもいいのです

 

愛の名において

祝福によって

その苦しみは 

掬われるものだからです



26.救い

 

こんなにつのる思い

貴方を見つめてきた僕を

貴方はさっと髪の毛を はなって

他の男の胸の中

 

そいつがうらやましくも 憎くもないし

あなたを愛する以外の

気持ちはさらさらない

 

つまるところ 行き場を失った

僕に戻ってくる

何ともはや 最後まで

救われぬ僕



27.漫才師

 

漫才師の巧みさに

驚嘆よりも 

親近感を持つのは

やはり俺もその類か



28.炎

 

青春の炎は

今にも消えそうに

かぼそく揺れていても

耐えきれそうもない風が

まともにぶつかってきて

消えたと思っても

生きているかぎり

燃えつづけているのです

 

その内なる光を信じて

僕は生きるのです

あきらめてはなりません

道は果てしないもの

到達できるところまでいくだけです

 

やりきれぬと思うのは 思うだけ

なんやかんや言っているうちに

すぎてしまうのです

 

怒りはささらぬ

どこにもささらぬ

我が胸が赤くそまった



29.詩

 

シッ 詩だ 死だ シダ Cだ

白い風が頬をきりつける

痛みさえ感じぬ僕さ

額に打ちこまれた釘が

少々熱くおびえてきた



30.幻想

 

月がブラックから 切り出されて

ぶらさがっています

夜空の裏側は

あんなにも 明るいのでしょうか

 

そういやあ 古びたナベぶたの

穴ぼこにもれくる燈は明り

さびしくも 笑っているではありませんか

 

さてさて 太陽は

元気にやっておりますことやら

聞いたところによりますと

あまりにもっともなこと

 

昼に生きている人が笑うので

かえって怪しくなりました

ナベぶたを持ちあげる

ちょっとのすきに

 

大きな手があくまで好意的に

熱い無節操な太陽を

自動温度調節の電源に

取りかえることもありましょう

 

あまりにまばゆいので

真偽のほどは定かでありませんが

この頃ちょっと調子が悪いみたいで

 

だいたいどうでもいいことです

愛を忘れるほど平和なのです

 

僕とても 凝らした目を妙にやかれて

せっかくの月まで 見られなくなっては

もともこもありませんもの



31.歩く

 

太い一本道を 僕は手をひかれて

歩いてきた

そして 今 分かれていく

 

思うがままに行きなさい

ここまで歩んだ

自分の力を信じて

 

道は途切れても

己の足で固めていきなさい

一歩一歩 命ある限り

力一杯 踏みしめて

 

僕は声の遠くなる方を振りかえった

誰も いなかった

今歩んできた道さえ 消えていた



32.人蓄無害

 

僕は君を追いつめた 両手を肩におき

哀願するような目で こういった

 

なぜ なぜなんだ

そうまでして 

僕から逃げるんだ

君はうなだれて 聞いていた

悲しそうにさびしそうに だまっていた

 

僕も何だか 憐れになって

君よりも僕の方が ずっと憐れだが

声を和らげていった

いったい 僕がなんだというんだ

 

君にとっちゃ 風みたいなもの

何の興味もない

害もない



33.ドラマ

 

君は 自分の胸もとを見つめていた

何か抑えがたい感情を必死に

耐えようとしているように

額に緊張がみなぎっていた

額がかすかにビリビリとひきついていた

 

小さな肩が震えたので 僕は左手をはなし

君のうなじをそっとなぜた

指先に全神経を集中させ

やさしく やさしく なぜた

自分の心の底を 深く深くえぐっていた

 

君は 哀願するような目をしていた

その口は開く気配もなかった

僕はただ自分の持てるかぎりの感情を

君にそそいだ

 

君の心の奥底に届けとばかり

君はいったい何とみているのか

沈黙がこの世界から

二人以外のものを抹殺した

 

君は小さくなったり 大きくなったり

横に広がったと思ったら 線のようになった

ありとあらゆる変化をしながら

やはり不動だった 目を上げようとはしなかった

 

僕は両手で君の首筋を愛撫した

いや 触れていないほどにだ

君からにじみでている 気をもらすまいとして

君が一瞬目をつむった

そして ワゥーと首を上げ 僕を直視した

 

その目にはあらゆる感情が 見いだせなかった

ガラス玉のように澄んだ目だった

僕はしずかに背を向けた

今度は君の焦点は あきらかに

僕のうしろで結ばれていた



34.海

 

海よ なぜ 僕をこばむ

いつかの日のように 僕の体をやさしく

受け入れてくれないのか

僕の嘆き言を黙って聞いてくれないのか

そんなにも激しく 白々とした

波を 僕を 打ち砕こうとする

 

なぜだ 海よ

君の強さが 悲しく

君の偉大さに 僕は孤独だ

君は永遠だ 僕にとっては―

そうだ この命奪われようとも

 

君と一体になれれば 何を悔やもう

いや 君はきっと浜辺に

醜い僕の死体を吐きだすだろう

ああ 海よ こんなにも

激しく荒れてこがれているのに



35.酒杯

 

君を忘れてしまったはずの僕の心が

ときめく

僕は忘れていなかった

君の面影

 

電話がなった 僕は飛び起きた

しかし 出なかった

運命を左右されたくなかった

 

酒杯を手にしたまま じっとみていた

水面に貴方の顔がうつった

暗く悲しげな顔だった

僕はゆっくりと口をつけた

そして 貴方の悲しみを飲みほした



36.神の死

 

神が死んだ いいことじゃないか

悪魔も死んだのだから

否 だから

世の中がつまらなくなったのさ



37.傘

 

お嬢さん 傘をおさしよ

雨にぬれては なりません

あなたの かよわい純粋な心が

溶けたら どうするのです



38.メロディ

 

ねぇ メロディ

今日はいやに浮き浮きしてるね

いいことあったの

僕は いつも通りさ

外には何もないよ

 

ねぇ メロディ

今日は憂鬱になりなよ



39.雨は

 

自分の生んだ子供に

殺される

なんたるドラマだ

親孝行だ

おかしすぎて

背筋がぞっとする

 

雨よ そんなに

チタチタと降ってくれるな

こっちまで悲しくなって

寝られないじゃないか

不幸な人間どものように

ザーっと降れ

そしたら こころよく

僕は眠りにつける

 

詩人だって

死人でたくさんだ

その方がよっぽどましさ



40.焦がれて

 

詩なんて書きたくない

言葉を並べて 遊んだって

何にもなるものか

でも でも この寂しさを

まぎらわすには

こうして 白い空白を

ぬりつぶしていくしかない

僕の心の空白を

 

空虚だ

布団でも 抱きしめていりゃ

貴方が忘れられようか

いや この魂の切なる訴えを

ただ ここに 吐き出すのだ

少しは ましになる

少しは 楽になる

 

君知るや

ここにかなわで

胸こがす

 

詩なんて書きたくない

言葉を並べて 遊んだって

何にもなるものか

でも でも このさびしさを

まぎらわすには

こうして 白い空白を

ぬりつぶしていくしかない

僕の心の空白を

 

ああ 空虚だ 人恋しい

 

ああ 貴方の

ほほえみがほしい

ただ一時

ただ一度

我が胸に



 

 

Vol.9

詩Vol.9



1.悲しむなよな

 

そんなに悲しむなよな

俺だって 悲しいよ

叫び疲れて のど枯れて

結局  昨日とまた同じ

友もなけりゃ 酒もない

女もなけりゃ 飯もない

みじめだよなー

わかるよ わかるよ わかっているよ

いいかげん 自分を慰めていると

よけいみじめになっていく

 

でも 俺しかいない

いや 俺がいる

俺だけはわかっているんだ

 

雨が降り降り 雨が降る

その一滴一滴が 恨み言だとしたら

今日は何と 怨念に満ちた日だろう

あの中には 俺のもある たくさんある

ずっと ずっと 昔から

俺の涙は尽きなかった

ちょうど天にのぼって

俺に帰ってくるころだから

 

どら 出迎えにいってやるか

・・・そんな必要もないか

雨がつらい思い出 ぶら下げてこなくても

あのころ以上に 悲しみ溢れた

毎日をもらっているから



2.鳩が飛ぶ

 

鳩が飛ぶ 雨に打たれて 鳩が飛ぶ

今日こそは 注目を浴びるだろうと

鳩が飛ぶ まわりを見渡し 鳩が飛ぶ

能力なしの 弱虫ども

鳩が飛ぶ 満足げに 鳩が飛ぶ

 

誰もみていやしない 

たとえ 空をあおいでいる

人がいても 暗い空

なんで鳩がみえようか

 

それでも 鳩が飛ぶ

雨に叩かれ 鳩が飛ぶ

雨滴が顔にささる 痛さこらえて

 

鳩が飛ぶ 俺は飛んでいると 鳩が飛ぶ

ただ 己が納得するために 鳩が飛ぶ



3.ある恋

 

あるいは あの恋は

なんでもない すれ違いだった

それを これまた ご丁寧に

僕という男は はしゃぎまわって 顔ゆがめて

あ~ こりゃ恋だなんて

無理やり決めちまったんだよ

 

今 思うと ずいぶん昔になっちまった

恋とやらも ずいぶん無責任

いろいろな感傷をやたらと強いて

人を悩ましやがって 挙句の果てに

たどって たどって 根源を

つかまえようと 追いかけてみれば

 

夢か本当か はたまた幻想か

思い出筋がぽつんと途切れてやがる

忘れちまったよーって 投げ捨てておこうにも

なんだって そんなにしつこく付きまとう

 

あの人去って あの想い去って

取り残されちまった

俺にいったい何の用がある

あの人が忘れた分だけ

俺が引き受けちまったわけ



4.街

 

幸せ探しに汽車に乗り込みました

そう言うと ずいぶん素敵だけど

不幸に追いかけられて 街を捨てたのです

どうせ嫌な思い出しか 持っていなかったから

 

何も心残りはないけれど

街が窓の後ろに流れていくとき

胸にかすかな痛みが走りました

 

生れて今まで育った それ以上は

何のゆかりもない街だけど

憎むことしか知らなかった街だけど

闇に消えていく街をみていると

やっぱ 俺の街だとよくわかる

 

明日は見知らぬ街で

新しい生活が始まるさ

最後に一言 

なかなか いい街だった



5.雨よ降れ

 

雨よ

そうだ 降れ 降れ

遠慮なんかいるもんか

どんどん降れ

 

悲しいのなら

涙出るだけ 流してしまえ

怒り狂っているなら

雷鳴響かせ 山も街も

すべて 流してしまえ

 

何もかも 遠く深く

海に沈めてしまえ

それでも 足りぬなら

地球など 真っ二つに

割ってしまえ

 

堕ちた楽園などいるものか

腐りきった人間などいるものか

流れに任せば 濁りゆくばかり

どうせ破滅する人類だ

 

追いつめ 切腹させるよりは

早いとこ 清い天上の水で

一掃しちまえ

 

雨よ

そうだ 降れ 降れ

お前をバカにした人間どもを

いなしてしまえ



6.おちぶれちまった人

 

おちぶれちまったって

あんたは自分をけなすけど

そんなあんただから

そっとなぐさめたくなる

 

あんたは グラス片手に

陽気に笑っているのが

一番素敵さ

 

ヘタな同情よしなよって

あんたは自分をつっぱなすけど

そんなあんただから

そのまま昔に戻れる

 

あんたがのぞいた世界が

あんたに教えたことは

楽することと賭けること

そんな世界に耐えられなかった

 

あんたはちっとも変わらない

危ないこともあったけど

人間の心の中に戻ってきた

 

さあ 乾杯しよう あんたが無事に

おちぶれちまったことに



☆7.笑わないで

 

笑わないで

そんなに明るく

何もかも幸せ一杯

世が平和に満ちているかのように

笑わないで

まるで何も知らない嬰児(みどりご)のように

 

あなたは笑う

あっけらかんとした表情で

あまり底ぬけに笑うものだから

あなたの周りの空気から

壁から 何から何まで 笑いが移って

ほら 僕まで笑いたくなってきた

 

笑いたい そんな誘惑に感じながら

僕は固く心を閉ざす

せめて笑える日がくるまでと

君は笑う そんな日が来るものですか

 

笑えるときに笑っておくのよ

でも 今笑ったからって どうなるの

笑っていなけりゃ

笑いも忘れるものよ

 

あなたも いかが

幸せと同じよ

僕は一つだけ

あなたの笑いを受け取った

 

それで充分すぎるぐらいだった

なぜって 今度はあなたが

笑わないで と僕に

頼んでいるのだから



8.なぜ走る

 

なぜ走る

そんなこと判らないよ

ただ 走っているのさ

 

なぜ走る

走っているってことが

わかるからさ



9.太陽よ

 

太陽よ 君は

そんなに美しく沈みながら

明日もまた天まで上るのか

 

月よ 君は

夜にロマンを与えているようで

ちゃっかり主人公におさまっている

 

星よ 君を

描いたデザイナーは

さぞかし 有能だったことだろう

 

海よ 君を

すっぱりと おさめられる

胃袋が欲しい



10.人間よ

 

人間よ 君たちは どこに進もうとしているのか

厳しい自然に これほど立派な道をつくりあげ

今だ 一息もつこうとしない

 

人間よ 君たちに 限りない前進を命じた

それほどの幸福はないと 私は信じていた

けれど それほどの不幸もまた なかった

 

人間よ 君たちの前進が 内面に向かうよう

私は海をおき 空をおき 止めるつもりだった

けれど 君たちは かまわず進み続けた

 

人間よ 君たちは 進むことしか知らない

願わくは そう遠くなかろう

人類の終着点にも その意気で

突っ込んでくれるように



11.だめだ

 

だめだ

君は20年生きてきて

未だ人生を歩めず

 

だめだ

君は今 燃えていなければ

ならないはずだ

あと何年も生きられると思うな

 

明日は身動きとれぬように

なっているかもしれぬ

それを否定できるものは何もない

 

たぶん明日も今日のように

終わるだろうなどという

漠然とした予感を抱いてはいけない

 

明日は君は

走らなければいけない

さもなければ 両足を折って

動けなくなるだろう

 

少なくとも そう思え

だから 今日は安らかに眠れ

明日の活力のため



12.20歳

 

なんて重いんだ

もう動けない

遅すぎた

 

ここまで生きてきた

精一杯やったつもりだった

でも何をやったかといえば

何もやっていなかった

 

今からでは 遅すぎる

もはや 体は動かない

なんて重いんだ

この年月は

 

今からでも できることはないか

捜せば 捜すほどない

僕は生きたつもりだった

誰よりも生きたつもりだった

 

それが平凡だったんだ

僕は人並みほどにも

生きていなかった

 

人がそう見るように生きてきた

だから いかにも生きたように思えた

真に 生きたことはなかった

今こそ 認めよう

 

もう遅いなんていうのも

人と比べるからなんだ

絶対的に生きるのに

他人はいらない

 

やっと希望がみえてきた

薄い 薄い光だが

この年を原点において

今度はもう10年しかないと

生きてやる



13.生きるとは

 

生きるとは何ぞやと

やたら頭抱えて

考え込んでいるうちに

眠っちまった

 

気持ちよかった

何もかも忘れて

眠っちまった

 

こんなに眠れるものなら

この問題もそれほど難しい

ものではあるまいな

 

そうだよ そうだ

簡単だ

眠っちまえば

簡単だ

 

天井の下に

大きな子供が一匹

子供らしさを失ったのに

大人にはなりきれない

半端な半端な

小さな大人な一匹

 

うろちょろ うろちょろ

長い長い橋の上を

いったりきたり

なかなか真っ直ぐには

渡れない

 

それでいいんだ

渡っちまったら

橋なんて

なんて短いものなんだろう

 

青春なんて

青春なんだ



14.髪の毛

 

髪の毛をお伸ばしよ

サラサラ サラサラサ

風になびかせよ

ソヨサラ サラソヨサ

 

充分きれいになったら

水におひたしよ

ツゥー ツゥー

水におひたしよ

明朝までに乾くから



15.失った愚かさ

 

暖かい巣の中から見た空は

とてつもなく美しかった

それにあこがれこがれ

いつの日か

あの大空を我もの顔に

飛びまわれることを思い

一途に生きてきた

 

年は 待たずとも 流れ

僕も大空に飛び立った

飛び立ってみれば

空虚な空間だ

 

空のどこが青く 美しい

雲のどこが純白か

太陽なんて

別世界のものじゃないか

 

こんなものにあこがれ

一途に生きてきた

その愚かさが

今はうらやましい

 

空からみるちっぽけ巣は

哀れを超えていた

愚かさを失うという

愚かさを犯してしまった



16.波の追憶

 

ボクはいつのまにか

歩くのをやめて

列車に乗っちまった

行き先のわからない列車に

どこかに着くだろうと

外の景色も見なかった

 

いつまでたっても

列車は停まらないものだから

僕は降りられなかった

今 考えてみりゃ ありゃ

あのとき 僕は

青春を発ったのだ

 

波の間をやどかりが

歩いている

君には砂と塩水しか

わからないだろう

どちらもすこぶる

厳しいものだろう

 

波の上を僕が歩いている

僕には砂浜と海がわかる

どちらも案外

優しいものだろう

 

ここはやっぱり君の世界

僕の住むところではない



17.列車よ

 

列車よ 歌うな

カタコト カタコト 歌うな

それでなくとも

僕は疲れているのに

 

列車よ 止まるな

カタコト カタコト 歌っても

それでもよいから

僕の眠りを妨げるな

 

窓から絶えず

新しい風を入れてよ

さもなきゃ 

僕は腐っちまう



18.海

 

積もりに積もった悲しみ

溜まりに溜まった不満

押し寄せる怒り

落ち込んだ憂いの色の海

 

おまえは

青い空のなかにも 嵐を見

嵐のなかでも

青い空を見ていたのか



19.杉の木

 

なぜ お前は

それほど

まっすぐ

天に向かって

伸びるのだ

 

なぜ お前は

それほど

しっかりと

地に深く根をおろすのだ

 

なぜ お前は

それほど

心を少しも乱さないで

いられるのか



20.投函前後

 

手紙を書きました

何度も何度も書こうと思っては打ち消し

何枚も何枚も書いては破り

それでも書かずにいられませんでした

出してはいけないいけないとおいたまま

それでも出したくて出したくて

 

結局 胸にあて 自分の心で温め

奇跡さえ起こらぬことも わかりすぎているのに

最後の最後まで 手を離すのをためらい

あまりに胸が苦しくなって

その拍子に投函してしまいました

 

明日は貴方の手にわたるでしょう

貴方は何気なく裏を見

私の名前を見つけて不愉快になるでしょう

そしてきっと その辺に投げておくでしょう

そのまま捨てるのかもしれません

 

お茶を飲み終わって 手持ちぶさに

乱雑に封を切ってくれるかもしれません

細やかな字にうんざりして

貴方はそのまま その辺においておくでしょう

 

もし もしかすると 少しは

気まぐれに読んでくれるかもしれません

でも何事もなかったかのように破って

くず箱に捨てるでしょう

それがわかりすぎているだけにつらいのです



21.報われぬ想い

 

ただ一人の姿だった

僕のすべてだった

 

そんな僕は貴方には

単なる一人の子供だった

貴方の添え物にも値しなかった

 

胸が 焦がれて 焦がれて 焦がれて

報われぬこと わかりすぎているのに

どうして むやみに焦がれるのだ

忘れようとすればするほど 強く浮かんでくる

 

ああ 貴方は幸せだ

こんなにも 愛されて

ああ 僕は不幸だ

こんなにも 愛しているのに



22.浜辺に一人

 

浜辺に一人 お似合いさ

こんなに広いのに

立っているのは 僕一人

 

海の向こうに君がいる

そんな気がする

海はあまりに広すぎる

僕はなすすべもなく 砂をにぎる

 

浜辺に一人 しようもないさ

君はいない

 

海の向こうに 君がいる

それを信じて 僕は泳ごう

どこまでも 行けやしない

力尽きるのは わかっている

 

でも この浜辺にいても

仕方がない

君はいないから

なら一層のこと

 

君を求めて求めて

そのまま 波間に沈んだほうが

どれほど楽かと

僕は海に突っ走った



23.たまらんなあ もう

 

たまらんなあ もう

すべて灰に帰しちゃった

あれほど苦労して築いた

あの街 この街

あの空 この海

きっとすてきな世界が

できるだろうと

夢見て 夢見て

気付いたら 皆 真っ黒け

 

たまらんなあ もう

何もかもなくしちまった

変な夢を追わず

あれも これも

あいつも こいつも

触れず 触らず

つきあっときゃ よかった

夢見て 夢見て

いつの間にか 一人ぼっち

 

たまらんなあ もう

何もかも 置き去りにして

一つの夢を追いかけて

そのときに

なってみりゃ

どれも これも

何も手に入っていなかった

考えれば考えるほど

悔いばかりの我人生

 

ところで

俺は変わりはしないや

なんて強がるのも 負け惜しみ

とやらに 違いあるまい



24.過去にしがみついて

 

過去にしがみついている男が一人

皆が明日の朝の光を浴びているのに

ぽつんと一人

日の暮れた街で別れを惜しんでいる

 

思い出に押しつぶされている男が一人

昔の女が忘れられなくて

何度も手紙を書いては破り捨て

その紙片を拾っては

セロテープでくっつけている



25.杯に口もつけたら吐きまくれ

 

杯に口もつけたことのない 僕だけど

もし酒が理性を失わせてくれるものなら

飲んで 飲んで 飲みまくりたい

そして 何もかも 忘れちまうんだ

 

君のことも もちろん 君とのことも

昨日までと全く違った世界に

僕は重い肉体を脱ぎ捨てて

飛んでいくんだ

 

どこでもいい どんなところでも

君がいる この世界よりは

君がいる この生き地獄よりは

 

酔っ払いをさげすんでいた 僕だけど

もし苦しみが悲しみを覆ってくれるものなら

吐いて 吐いて 吐きまくりたい

そして 何もかも 出しちまうんだ

 

君のことも もちろん 君とのことも

今まで大事にとっておいた思い出も

僕は汚物とともに 吐き出してしまうんだ

 

できることなら できることなら

君に関わるすべてのものを

僕から出してしまいたい

でも そうしたら

僕も残れやしないだろう



26.恋が盲目というなら

 

恋が盲目というなら

僕はそれと反対の端に立って

君を見ていた

憎しみに近いほど冷静に

欠点をあらいざらいに

 

何のためだったのか

君を理想に近く 育てるためか

注文を出しすぎたがために

せっかくの料理を台無しにしちまった

 

僕は君のそばにはいなかった

僕が立っていたのは愛の裏側

 

もう僕は何もいらない

青い空も 緑の大地も

春も秋も夏も冬も

命をも返していい

 

ただ一瞬 彼女の心のほんの一部に

僕の入る隙間を与えたまえ

そしたら 僕は

十字架にかかって死んでもよい



27.夢の中で貴方に

 

夢の中で貴方に会える

そこでも僕は 顔を伏せて

貴方をまともに見られない

愛することは 罪なのか

 

これまであれほど苦しんで

なおかつ 逃げられぬ

引け目を負うているかのように

自由なはずの世界でさえ

僕は貴方に近づけない

 

貴方の声がピーンと響いて

聞こえてきたから

びっくりして 目が覚めちまったい

それほどの切ない

僕の恋心

 

寝ちまった 寝ちまった

何もかも忘れるため 寝ちまった

皮肉だ 皮肉だ 何たる嫌味

夢の中にまで 貴方がいて

夢の中でさえ 僕は追いかけている

 

走っても 走っても 追いつけぬ

流れ星 

あ! 落ちた

僕はぐっしょり 汗をかいちまった



28.手紙を残したまま

 

手紙を残したまま

部屋を出てきた私

貴方の面影と

窓の外 流れる街の光

混ざり合っては 後ろに消え去る

 

明日からどうなるのか

わからないけれど

せめて今だけは 一人にしておいて

愛されて愛されてみたくて

夢追いに出かけた私

 

もう唄いたくない いくら

貴方のことを唄いつづけても

貴方はますます遠ざかっていく

忘れようと 唄うたびに

貴方は私の心にますます大きく

高まり轟く

 

さりとて唄わずには

この胸のせつなさ

投げ出すやり場がない

ああ 何とはや 憎しみ足りぬ

我が不条理の心よ



☆29.放課後の残照

 

窓際にぽつんと 貴方が座っていた

夕陽の残り光が 薄紅に頬を染めた

貴方はさりげなく 荷物をまとめ

帰り支度を急いでた

 

僕の気配にツゥーと 目を上げて

かすかに微笑み浮かべて顔をそらした

貴方はもの静かに席を立ち

うつむき加減に 出入口に歩んできた

 

静まり返った教室の中から

気づまりを追い立てるように

貴方は足を早めた

 

僕の横を通るとき 僕は黙っていた

通り過ぎたあと 少し経って

貴方が言った

さようなら



30.たとえ どんな姿で

 

たとえどんな姿で現れても

僕にとって 貴方以上の女(ひと)はいない

そう 長い歴史がそうする

僕の華かしい苦渋に満ちた日々と

共にあった女(ひと)

 

青春がまたと還らぬ今

僕の愛せる人も ただ一人

 

大人になるのを嫌った僕たち

今 一人になっても

そのクセは抜けやしない

 

なぜ なぜに 手が届かない

テーブルを隔てた

その向こうに 以前と変わらぬ

笑顔でいるのに



31.愚かな心

 

ああ 生命 捧げてもいい

この指が 貴方の髪に一本でも

触れられるものなら

 

ああ さようなら 恋しき人

貴方は消えても

僕は貴方から 立ち去れない

 

星の明かり うっすら窓辺にさして

僕の想いは 貴方の庭園をそぞろ歩く

眠れぬ夜の物思い

 

思えど 思えど 何ともならぬ

それを知りきわめていながら

思わずにいられぬ この愚かさ



32.眠り続けよ

 

いったい何の因果なのか

貴方はこの静かな夜

ぐっすりと眠っているだろう

はせども はせども

届かぬ この想い

 

いや 待てよ

貴方も もしや 寝付かれず

慕っているのではなかろうか

想い 結ばれようか

 

いや まさか

その相手が僕であることは

万分の一もあるまい

 

さらば 静かに眠り続けよ

いつまでも いつまでも

何にも 悩まず

誰にも 思いはせず



33.憎んでいいですか

 

ある人を憎んでいいですか

WHY

その人は僕の愛を踏みにじったのです

HOW

血へど出るまで愛の言葉を吐かせ

それをうすら笑いし 背を向けたのです

AND

僕は復習さえいとわない

憎みたいのです

FOR

僕自身のためです

己の愚かさに気付いたのです

AND

手段はないのです できれば

この片恋のつらさを

貴方にも知らしめたいのです

BUT

そうです できぬことはわかってます

彼女は気まぐれにも

僕を愛したりしない

仮にそうなったとしても

いや なるわけがないのです

AND

だから 貴方が僕に彼女を愛すべき

運命を授けたのと同様

憎ませてください

BUT

そう できないことはわかってます

誰よりも この僕には



34.満天下の戦士

 

もてるだけの力を出し切って

疲れ果てて 帰るとき

足は棒のように 痛みも感じず

ただシャリシャリと 雪氷の道を歩む

 

新たなる試練へと向かう

ほんの一時の休息もなく

戦士は歩き続けねばならぬ

 

その戦士は それほどまで疲れて

なおかつ 歩き続けられるのは

 

そう 戦士の目の前にぼうっと

黄色く広がる煙が

愛する人の顔を 浮かべているから

それを戦士はいつも見ているのだ

 

次の火蓋が切られる その刹那まで

戦士は愛する人にだけ

気力をもって一言 告げる

ほら 星が あんなにきれいだ



35.恋の戦士

 

いつの日か 報われん

いつの日か 報われん

戦士は祖国のためにという名のもと

愛する人のために戦った

己の愛を守り抜いて

命を懸けて戦った

 

それなのに あんまりじゃないか

命を懸けたこと 

それはそれなりの価値はあったさ

 

でも あんまりさ

愛が壊れちまった

何が残っているんだよ

君がいなくて どこに僕がいるのか

 

勝利を胸に秘めて

力尽きるまで 戦った

貴方を思い浮かべて戦った

 

戦に破れ 貴方は去り

僕に残るのは

あの苦しい行軍を支えてくれた

あなたの面影



36.一輪の花

 

あの切り立った崖っぷちに

一輪咲いた花を取ってほしいと君は言った

僕は君を知っていた

少なくとも君が僕を知っているよりは

 

あの崖の真下の岩に

幾人の前途が絶たれたことか

男の呪いがしみこんでいることか

 

あの花は枯れることを知らない

君にさぞかしふさわしい花だろう

 

さりとて 僕は弱虫だ

聞いた端から 足が震えている

 

あの花を君と思って摘んでこようか

それなら 少しは勇気が出そうだ

君はうなづいた

 

半ば上ったころだろう

あと少しと 見上げたところで

僕の体は空に投げ出された

 

一輪 花が見え

一時 君が見えた

 

それから ずいぶん長い時間たった

君の笑い声が 谷間に響いていた

美しく 快く 響いていた



37.海 SEA

 

 夜の海が好きなのです

 誰もが寝静まった この夜更け

 小言を聞いてくれるのは

 貴方だけなのです

 

 夜の海は静かなのです

 悲しみに沈んでいる人も

 眠れるように

 心地よい波を立ててくれるのです

 

 夜の海は哀しい色に

 染まっています

 どんな深い哀しみも

 引き受けてくれるのです

 

 夜の海は哀しい人にはわかるのです

 月の元に

 波が繰り返し悟すのです

 

 貴方の涙は砂にしみていく

 哀しみを引き受けて

 黙って耐えているのです



38.父

 

貴方は寝ている子犬が

かわいくて かわいくて

膝の上に乗せようと 抱き上げた

子犬が素直に尾を振り

やさしく自分を見つめ返してくれることを

心のどこかで期待しながら

 

しかし 子犬はうなった

噛みつこうとした

貴方をにらみ返した

 

貴方は怒った

決して愛が安っぽかったわけではない

愛ゆえに 真実が見えなかったのだ

 

子犬は子供よりも純真だった

ぶたれても 蹴られても 自分を主張した

あげくの果て 子犬は幼き息を引き取った

貴方は自ら掘った 気づまりの悪さに

背を向けた

 

妻に勝ち 子に勝った貴方も

この小さな魂にはかなわなかった

 

愛と思えばエゴである

犠牲と思っていた方が

まだ悲劇は救われる



39.思い出

 

思い出をこの世に残していく

たとえ肉体は滅びようとも

お互いの胸に分かち合った日は

貴方のものとなって 生き残る

貴方の命 ある限り

 

貴方が死んだら 僕の思い出など

何の要りようがあろうか

貴方の知らぬ僕の思い出に

今さら何の未練があろうか

 

後生なのは

貴方に対する僕の思い

 

これほど強いものが

果たして貴方の中で

どれほど 生き続けるのか

 

これほど強いものを

果たして貴方は

覚えていてくれるだろうか



40.砂浜にて

 

南海の孤島の砂浜に寝ころんで

毎日 海と空を見て暮らしていたいな

 

灼熱の太陽が 僕の体を照り焦がし

強烈なスコールで

僕の体から蒸気が上がる

 

熱にあげられ 雷に打たれ

肉体はボロボロになって

ポロポロにおちていく

 

白く固い精神だけが 感覚もなく

浜辺の砂の中に粉と砕け

混じっちまって ときたま

キラキラ キラキラ

輝いてくれればいいもんだ



41.幸と不幸

 

「心が開いているときだけ この世は美しい」(ゲーテ格言集)

 

とても明るいおじいさんがいた

おじいさんはいつも子供に言っていた

心をいつも開いていなさい

そうすりゃ、何もかもすばらしいものだから

 

子供たちにはわからなかった

すばらしいというのが何なのかわからなかった

しかし 子供たちは知っていた

すばらしさを体で感じていた

 

おじいさんは言った

いつまでもその心を忘れるでないよ

 

子供は聞いた

心ってどこにあるの

おじいさんは胸に手をあてて言った

ここだよ ここだ



おじいさんは余計なことをしてしまった

魚が水の中にいることを最後まで

気づかぬのと同様

子供たちにはわからなかった

それをあまりくどくどいうものだから

子供たちは思った

 

胸のところに心というものが入っていて

それを開くと とにかくよいんだ

幸せとかになれるらしい

 

子供たちは幸せを知らなかった

幸せなど健康と同じで持っているうちは

気づかぬものだから



ある日 おじいさんが不幸になった

病いを患い 床についた

子供たちはよろこんだ

自分たちの中には

誰も幸せを喜ぶことのできる

不幸なことがなかったからだ

 

おじいさんはすっかり無口になって

子供たちをうらやましそうに見ていた

 

子供たちには的ができた

待ちかねていた的ができた

 

おじいさんがフラッと立ち上がった

その一瞬 一番大きな子供がナイフで

おじいさんの胸を突き刺した

赤い血が噴き出した

皆がどっと喚声をあげた




42.一枚の銅貨

 

ある落ちぶれ貴族が

街角で銅貨一枚を拾った

彼は手持ちぶさな時間を少しでも

つぶそうと 近くの賭博場に入った

 

彼はその一枚をルーレットの黒においた

紳士、淑女、見物客のうち

彼同様、貧しい野郎は笑った

銅貨一枚ぐらい 誰でも持っていたからだ

 

その一枚が二枚になったとき

笑いも二倍になった

その二枚が四枚になったとき

その四枚が八枚になったとき

笑いは半分ずつになり

その八枚が十六枚になったとき

ほうーっというため息がもれた

 

彼は銅貨を銀貨に代えた

見物客は彼の後をおって

隣の台に移った

そこでやっていた 紳士、淑女は

銀貨一枚 彼がおいたのをみて笑った

 

そして同様

笑い声は ため息に代わり

彼は銀貨を金貨に代えた

 

次の台で彼は金貨一枚を置いた

誰も笑わなかった

そこでやっていた紳士、淑女は

こんな男に大勢の見物客がいるのが

腑に落ちなかった

 

彼の金貨が二倍ずつ増えるにつれ

人々は畏敬をもって

彼を見るようになった

 

彼が目をあわせた紳士は

照れ笑いをし 淑女なら

コクリと頭を下げるのだった

 

彼は持ち金全てを毎度賭けていた

彼は考えていた

どうせ銅貨一枚だったんだ



皆は彼の度胸と運を褒めていた

彼のテーブルに金貨が積み上げられていった

後から来た観客は

どこの王様であろうかと思い始めた

 

支配人は恐れおおくも

一張羅の彼に タキシードを差し出した

彼の心の中は平静だった

確率は銅貨一枚のときと

変わっていない

 

まわりで騒いでいる人間どもが

バカらしく見えてきた

 

彼は少し眠ってしまった

観客に囲まれ 息苦しくなったし

何より昼間からぶらついていたから

疲れたのだ

その間も勝負は続いていた

誰かが彼の賭け方で代行してくれたのだ

 

一段と高く上がった

まわりの歓声で 彼は目を覚ました

みると机の上に 山というほど

金貨が積んである

 

支配人が恐る恐る頭を下げて願い出た

「すみません

次の一回に勝たれると 店がつぶれます

どうか引き取り願えませんでしょうか」

 

彼ははじめて金貨の山を

自分のものとして計算しはじめた

奇跡的な確率で 勝ち続けて

これが全て己のものなのだ

 

彼は欲に目がくらみ冷酷な眼になった

観客の声に応じる英雄として

使命に燃えていた

 

ルーレットは止まった

 

彼は紳士淑女にあざけ笑われ

身包みはがれ 放り出された

 

彼は落胆して家に帰った

妻と子供がいつもの笑顔を向けて迎えた

 

彼は使命を思い出した

この妻子を食わせることだ

妻はあまりにしょげている夫をみて

何があったのかと聞いた

彼は答えた

 

いや なに せっかく拾った銅貨一枚

ルーレットで取られちまった

そんなことで と 妻と子供は

貧しさも逃げていくかと思うほど

大笑いをした

彼も一緒になって笑った



43.保存法

 

百姓が野菜を長持ちさせようと思案した

 

太陽は 日干しにすればよいといって 熱をくれた

海は 塩焼きにすればよいといって 塩をくれた

山は 缶に詰めればいいといって 鉱石をくれた

大地は みそに漬ければよいといって 大豆をくれた

 

その娘が その感激を いつまでも残したいと考えた

 

日干しにしてしまっておいた感激は

すっかりあせたものとなった

塩漬けにして ずいぶん苦くにがいものとなった

缶詰めにして 加工された新鮮味のないものとなった

みそ漬けにして 加工された新鮮味のないものとなった

 

いつのまにか その感激は 発酵して想い出となった



44.砂山と波

 

幼子は波打ち際に

砂をもって 山をつくる

波が来るたびに

そのふもとは とけ 山は崩れる

 

少し年上の 兄弟たちは

波の届かぬところに 山をつくる

 

波は舌打ちをしながら

やってきては 引き下がる

その腹いせにか 幼子の山を

一気に飲み込んだ

 

少し年上の 兄弟たちは

消えた幼子の山を笑っていた

 

幼子は 口をとがらせたか

べそをかいたか

 

いや にっこりと笑って

また 山をつくり始めた

波うち際に



45.月と太陽

 

月があんなに奥ゆかしく輝くのは

きっと 太陽を待っているからでしょう

 

太陽は純情すぎるから

あんなに熱くなるのです

月に惚れているからでしょう

 

それなのに それなのに

月の方から輝くときはないのです



46.生と心

 

祭りが終わった

夕陽が沈んだ

涙がこぼれた

 

あまりに重かったので

中をのぞいてみた

からっぽだった



47.希望

 

この世は闇に覆われている

でも あそこを見よ

 

丸く切り抜かれ 光がもれている

よくよく見よ

小さな穴からも 絶えず光がもれている

 

だからこそ

こんなに 足下が明るいのだ

ほら水たまりの中にも

希望がある

 

手でつかもうとしても壊れるから

自分の心の中に

ゆっくり 写しなさい




Vol.8

Vol.8



1.風にのって

 

風にのって ふるさとに帰ろう

あの丘に登り 大の字になり 土になろう

 

果てしなく澄んだ青い空

草の匂いは すっぱく

太陽はいつまでも落ちない

ずっと そうして

遠く広がるふるさとをながめていよう

 

ふと思い出すのは あの日のこと

あれが最後なんて思わなかったから

ずっと いつでも会えると思っていた

 

何とも思わず 背を向けて

それだけだったのに

それだけだったなんて

二度と会えないことが

今までわからなかったなんて

 

風にのって ふるさとに帰ろう

あの丘に登り 大の字になり 土になろう



2.待合室

 

枕一つ ボロ布にくるんで

静まりこんだ 駅の待合室

ここが今宵の宿屋さ

 

季節はずれで人もいないから

少しさびしいけど

別れた友との感傷にふけるのもいい

 

一人の夜は長いから

明日のことでも考えようか

缶ビール片手に

足音消えゆく 駅のホーム

 

改札口を通る冷たい風

少し肌寒いけど

夜の貨物と感傷にふけるのもいい

 

疲れた体を いたわりながら

毛布にもぐって 夜明けまで



3.かぐや姫

 

すすき野のざわめきに カラスは帰る

それに心のせて 涙ぐむ

 

青く光る竹 こけた丸石

澄んだ水 ひびく音

 

身動き一つせずに

暗い空をみて

 

月夜の光浴び しっとり佇んで

すのこに一人 月を恋しむ

 

悲しみの君 そんな感じが似合う

さびしげな人

 

そでを胸にあて 風に髪を流し

何を思っているのか

ぼくのかぐや姫



4.私は歩く

 

いずこ知れぬ街に夢かけて

夜霧に追われながら

遠い日を思い巡らし

私は歩く

 

誰も知らぬ街に息づいて

朝明けに目をうるおしながら

遠い日に思いをはせて

私は歩く

 

つまづきかけた石ころ蹴って

からみつく 草やぶぬけて

道に出ることを願って

私は歩く

 

星の輝きは変わらず

遠いけれど

いつかきっとたどりつくと

私は歩く



5.今はもう

 

落葉が風に吹かれ 散り舞うように

何気なしに離れてしまった人

秋の虫の鳴くのも忘れて

知らぬ間に雪に閉ざされた世界

 

白い心を抱えて

何知らぬように過ごし

去った日をそのまま

うずめてしまおうとした

 

何をつけても心が君に

結びついてしまう

ほんのささやかな

出来事だったことさえ

 

春の小川が生ぬるいように

何となく湿った思い出が

さっと吹き飛んでしまえば

どんなにいいだろう

 

楽しかった思い出が

知らぬうちに重くなって

帰らぬ日がそのまま

永遠にぼくを苦しめる

 

何をしても心が君に

一人でやりきれない

ほんのささやかな

ことばの一つまで



6.若き者へ

 

若き者よ 行くんだ

希望を胸に抱き

青春という坂道を

涙と汗にまみれて

 

いつか その苦しさが

悲しみが なつかしく

うらやましくなる日まで

全力で輝く太陽のもと

自分を信じて歩もうよ

 

若き者よ 行くんだ

あふれる夢おうて

青春という架け橋を

悩み傷つきながら

 

いつか その愛が

友情が 打ち勝って

真のものとなる日まで

振り返らずたぎる血潮に

自分をぶっつけて歩もう

 

若き者よ 行くんだ

たとえ 何があっても

青春という虹を

勇気と若さで築きながら

 

いつか その挑戦が

根性が 真にはぐくまれ

何にも負けぬ 自分となる日まで

 

青春 かけがえもない

若さ 我らがもちえる

この清き時代を



7.青い小鳥

 

さよならさえ忘れて

口ずさめない青い小鳥

愛した枝を離れて

今 青い空に飛び立った

 

行き先さえも 知らずに

風にあおかれる 青い小鳥

愛した森を離れて

今 青い海をわたった

 

何もかも忘れて

夢しか見られない青い小鳥

病んでいることさえ知らずに

今 たった一人ぼっちになった

 

愛した枝が恋しくて

愛した森がなつかしく

 

日の光が一段

まぶしくなったとき

疲れ果てた青い小鳥は

羽を休める場所もなく

 

空 青い空に吸い込まれた

海 青い海に引き込まれた

 

さよならさえも忘れて

行く先さえも知らずに 青い小鳥は

愛した地を離れて

今 空と海に引き裂かれた



8.ラ・メール

 

さらば夏の日よ 太陽よ

白く波打つ 青き海よ

 

砂浜に残した足跡が

波にさらわれ消えるころ

夕焼け空に あの海が

燃えるころ

 

また会おうよ この浜で

この楽しかった日々を 

もう一度 過ごしてみよう

星がのぼらないうちに

 

僕は帰る けども

きっと もう一度 来る

君に会いに

 

砂浜で焼かれた体が

その思いを呼び起こす

砂浜に残した足跡が

波にさらわれ消えるころ

 

夕焼け空に 君の笑顔を

懐かしく思うころ

 

さらば夏の日よ 太陽よ

白く波立つ 青き海よ



9.ギター哀歌

 

日暮れては 部屋の壁にもたれて

白いほこり 吹き飛ばし

窓をあけて ギター抱える

 

さびれた音が 僕に語りかける

弦を一つ弾くごとに君のことを

思い出の曲は もう古すぎて

君と一緒に消えてしまったみたい

 

いつも隣に座って聞いていた君

指の動くのが不思議な顔してみていた

いつの間にか 口ずさんでいた

君が 急に僕をみつめるとき

いつも僕は間違えていたけど

 

何度教えても 上手く音が出ず

白い指をうらめしくみてた君

聞くほうが楽しいなんて 強がって

あの頃は空も街も みんな美しかった

 

今も一人 君に語りかける

弦を一つ弾くごとに 君のために

思い出の楽譜は もうさびしすぎて

君をいつまでも恋しがっているみたい

 

そんなことしかすることがなかったあの頃

君と楽しい日々を過ごしているつもりだったのに

いつの間にか 弦は切れていた

君が急に僕から去ったとき

相変わらず 僕はギター弾いてたけど

 

あの頃の空や街の美しさは

もう戻らない



10.断罪!

 

虫がいっぴき 電球に

しがみついたかと思う間もなく

落ちていった

 

誰も知らぬところで

何かが起こった

柔らかによそおった光が

冷たく輝いて 断罪!

 

蒸し暑い夜 その窓を

開けてみたらと思うのだけど

むかつく空気に触れたくない

 

誰も知らぬところで

何かが起こった

すーと 窓の向こうの星が

線を引いて流れて 断罪!



11.薄幸

 

触れた手の冷たさに驚いて

みつめた君の瞳の中に

白くうつろう初雪

夕暮れの公園にさまよう二人

わけもなく 風に揺れるブランコ

毎日がただ 過ぎていくだけ

 

すました耳の果てに聞こえる

哀愁さそう 汽笛の音を

白く消えゆく初雪

星一つ出て 話し尽きた二人

ぼんやり照らす 街灯の下

つかんだはずの幸せが

また逃げていく



12.Uターン

 

帰ってきたよ この町に

何も変わっちゃいないな

都会の風に吹かれて

俺もずいぶん汚れちゃった

そんなことどうでもいいさ

ここは 俺のふるさと

 

帰ってきたよ この町に

とうとう我慢できなくて

灰色のビルの中で

俺もずいぶんすり減っちゃった

そんなことどうでもいいさ

ここは 俺のふるさと



13.悩み

 

恋しさに 何も手につかず

君を思い浮かべる

だけど 僕は遠くから見てるだけ

何一つできない

 

摘めない花なら 咲かないで欲しい

色鮮やかに 香るたびに

僕は心を痛める できることは

君を見ないように 避けるだけ

そんなことしか できない

 

恋しさに 心安まることもなく

君がそこにいる

だけど 僕は君の眼を見られない

一言もしゃべらず 立ち去る

 

美しい花なら 眺めていればいい

そこにじっとしている君に

僕は頭を抱える できることは

君に会わないように 閉じこもって

そんなことしか できない



14.反転

 

となりの家から 夕食時だろうか

にぎやかに笑い声が聞こえる

とても幸せそう、だ なんて

昨日までの僕は

誰にも負けぬほど幸せだった

 

そして その終わりの日は

とても とても 長かった

 

何が僕らをうらやんで

運命を変えたのだろう

いつの間にか 装っていた幸せは

風船のように ふくらんで

なかには空気しか入っていなかった

 

気付かないまま いつの間にか

たるみ ゆるみ つぶれていた



15.君を残して

 

君の声が 教室から聞こえる「さようなら」

放課後の校舎は ひっそりしずまり

忘れ物を取りに来た 僕は

恋におちる 夕陽をみていた

 

君は腰掛けて汗をぬぐっていた

空がやけに広く からっ風の教室

君と二人っきりになれた 僕は

窓をあけて 空の色を考えてた

 

君は何も言わず こちらを見つめてる

グラウンドが柔らかく見えた

はえすぎた芝生にサッカーボール一つ

空白な時間が恐ろしくて 僕は

その窓を通り抜け 門まで走った

 

君を残し 君を残し

僕の人生から 君を残して



16.枯れる

 

心の中に植えた木が

実らないうちに枯れてしまう

一枚一枚 葉がおちて

寒々とした風にあおられて

枯れていく

 

太陽に青い葉を伸ばし

まばゆいほどに輝いていた

一周り二周り 枝が伸びて

暖かな日差しにはぐくまれ

伸びていた

 

強い風に耐え

遠い星に近づいていた

一日一日と色あせて

引き締まった幹は もう伸びようとせず

昔の夢ははかなく 枯れていった



17.秋の夜更け

 

秋の夜は更けて 星がきれいだ

軒下に揺れる 風鈴の錆びついた音が

つまみのないビールにあう

 

風流人ぶって 庭の池をながめていると

いつの間にか ほんとうにそんな気がしてきた

ぼんやりと体が冷えて 季節はずれの蝉の声

黒い池のうえに 半分隠れた月が

 

秋の夜は更けて 星がきれいだ

祭りの笛の音の こまやかな余韻が

いまだ 耳に残って消えない

 

風流人ぶって 扇子取り出してみたら

知らぬうちに 本当に秋らしくなっちまった

ほんやりと心が冷えて しめやかな庭の石

色ついた木の葉を 半分枯れた月が



18.夢の条件

 

夢は覚めてから

そう名づけてもよいだろう

しかし まだ見ぬものを

夢にしてよいはずはない



19.その先には

 

あの日を私に返して

すばらしく 弾んだ あの日を

果てしなく 遠く 夢にあこがれ

街をかけぬけていった

 

空が白くなるのを待てずに

起きて 飛び出した

何も持たず 線路にそって

ずっと 歩けるだけ歩いた

終着駅で 道は途切れた

そこには 海があった

 

あの日を私に返して はちきれそうに

すばらしく 広がった あの日を

僕だけがわかる夢を追い求め

すべてを投げ出した

 

日が暮れたのもかまわずに

星の明かり たよりにした

誰もいない そんな村をぬけて

ずっと歩けるだけ

曲がりくねって 道は途切れた

でも そこには 夢があった



20.彼は大人なんです

 

彼との出会いは

いつの日になるのか知りませんが

私の覚えている限りでは

三年前あたりではなかったでしょうか

 

きっちりと着こなした彼はどうしても

私と同じ歳とは見えず

やることすること 何でも手慣れて

まるで人生を二度歩いてるみたいに

見えたものでした

 

そんな彼が恐かった私も

少し大人になって

なんとか彼の紳士気取りに

ついていけるような気がしてきました

 

彼との約束のないデートは

いつも気まぐれな彼のおかげで

私の覚えている限りでは

およそは 取り止めになりました

 

すっかり気取っている彼は

どうしても私のわからないこと

やることすること

何でも指一本でやりました

まるで人生を ゲームのように

軽く戯れていた

 

そんな彼がわからなかった私も

少し大人になって

なんとか彼の紳士気取りに

ついていけるような気がしてきました



21.過ぎいかぬ

 

時は過ぎていくもの さらさらと

わずかに 確かに 

窓辺で本を開いて

風に髪をながして 外をみる

日差しはまぶしく 小鳥がさえずっていても

それはやがて止む

 

いつも同じ それが私を苦しませる

止められたときが

そこに そのままあるから

なのに あなたがいないから



22.もっと自由を

 

もっと自由をください

失われたものを求めることは 難しいことです

新しいものをつくり出すことより

もっと難しいのです

 

だから もっと自由をください

自由がなかったころの自由でよいから

自由にあふれているような 自由でなしと

私たちに もっと自由をください



23.つのる

 

日は暮れていく あかあかと

なまぬるく 手あかがついて

窓辺で本を閉じて

ガラスに息を吹きかけて 今日を消す

さびしさは かき消しても

心の中で大きくなる



24.私の心の中

 

歌おう 踊ろう 語り合おう

燃えている心を 体で感じよう

幸せは 輪になること

心が通じること

素直に手と手を結びつけること

 

誰も知らない私の心

笑顔の奥にそっと隠しているから

 

みんなの前では

できるだけはしゃぎまわって

歌っていれば それでいい

みんなは 幸せそうに私をみるし

私もそのときは幸福だから

 

一人二人と さよならを告げていき

一人になると 私もさよならと

みんなにいう

 

遠いところに行ってしまいたい

私ができるのは この日々を

思いっきり生きることだけ

 

沈滞している心を

体で燃え上げよう

幸せは 声を出し合うこと

体を動かすこと

今は ここにしかない

何かを感じさせるんだ

 

誰も知らない私の心

誰にも悲しみを分けたく思わないから

 

みんなと一緒にできるだけ 暴れまわって

踊っていれば それでいい

みんなと踊っていれば それでいい

 

一日一日 欠けてゆく

私もみんなと離れ 星の間をさまよう



25.放課後

 

誰もが幸せに感じるのは 6校時の終わり

ベルと同時に目が覚めて

学生服を脱ぎ捨てて

ロッカーから ギター取り出し 歌いだす

 

窓の外には

真っ黒な奴らがボールを追っている

木陰で 可愛い子が2、3人

笑いながら 話している

 

なのに なぜ 君は出てこないんだい

あの太陽も青空も君のためにあるのに

土にまみれ 汗を流して

出せる限りの大声で叫んでみな

 

あの白い雲も 遠い山も 君に答えてくれる

君がどんなにカギをしめても

すきま風は 君の心に入り込むよ

 

君はがまんしてるんだ いつかのために

今日の喜びを 明日に求めているんだ

いつの間に そうなったの

 

昔の君は素直だった

出会うことに喜び 自ら出かけていった

まだ遅くない 大人ぶるのは似合わない

君の心は まだ純情だから

そして君は 真実を求めているはずだから

 

幸せ感じるのは

あたりがすっかり暗くなって

校庭にも人影がまばらに

夕陽が照り 赤く染まる教室

汗がひいて 体が涼しくなって

ちょっと小さい夕食会

 

校庭にはポールの影が伸びて

ロマンスのシルエットがポツリ

カバンをもって 髪の長い子が誰かと

静かに遠のいていく

 

なぜ君は出てこないんだい

あの星も満月も君のためにあるのに

ほこりにまみれ 草の匂いをかぎ

出せる限りのスピードで走ってみな

 

あの流れ星も枯れた野も 君に答えてくれる

君がどんなにそれを見てみぬふりを装っても

燃える炎は 君の心に入り込むよ

君はまちがっている いつかのために

青春の喜びを過ぎたものにしているんだ

 

昔の君は無邪気だった

出会うものに感じ

いつまでも 別れたがらなかった



26.後悔

 

この歌を聞くと 涙が

頬をつたい 体が熱くなる

私の歌だから

生き抜いていたころの歌だから

この歌は消えない いつまでも

 

時代だけが通り過ぎ

たまらない 寂しさが胸をしめる

燃えつきるまで

今も私に力を満ちさせてくれる

 

それが苦しい 忘れたいほど

ボロボロに汚れちまった 

さらさらの この歌だけが

本当の私かもしれない

 

私の愛の歌だから

あなたを愛し抜いていたころの歌だから

その一途な愛だけが

たまらない悲しみに涙する

 

今も私にあの人の面影を偲ばせる

大人になった私は

あの人にさようならしたのに

この歌だけが

本当の私の愛だったかもしれない



27.貝殻

 

手からほろっとおちて砕けてしまった

これで終った あなたとすべてが

涙さえ乾ききったのに

潮の匂いのする貝殻

 

あなたの足元に光っていたのを

私がみつけて とっておいた

暗い空に 暗い海 波の音が

私たちを黙らせた



28.海辺

 

一晩中 歩いた どんな日でも

あなたは会いに来た

いつとなく あなたは去った

何も言い残さないで

 

割れてしまった これで去った

あなたとともに すべてが

幸せと 悲しみが

ぴったりと結ばれていた

 

海の香りのする貝殻

初めてあった日

そんな予感がしたので

海辺で見つけて とっておいた

暖かい日に暖かい手 体を寄せて

私たちは見つめていた

どこまでも いつまでも



29.気をひくのに

 

わざとらしく大きな声出して

通りかかった君の気をひこうと

できるだけ かっこつけて

見ている君の気をひこうと

そんなことばかり考えて

いつもパッと消える君の気をひこうと

 

悩んでいる振りをして 何ら考えていない

ギター持ち出して

歌の好きな君のため

リクエストに答えられないレパートリー

教科書ガイド暗記して

僕よりできる君の前に手をあげて

スラスラ簡単に解けるはずだった

 

せっかくいいところまでいきながら

通りかかった君の前で

通りかかった人にうるさいと

見ている君の前で

石ころにつまづいて

 

パッと消える君の前で

パッと消えられない



30.雨あがり

 

雨あがりの空は

日の光が一段とまぶしく流れゆく

白い雲に押されながら

 

すっかりきれいになった機関車は

色とりどりの貨車をひいて

牧場に出てきた牛たちは

いつもよりもせわしない

 

雨あがりの空は 青空がのぞき

電線の陰がくっきりと

草の上にのった露が

キラキラと輝いている

 

しっとり湿った道は

たくさんの水たまりができ

黄色いレインシューズ履いた子供たちが

傘振りまわし 飛び跳ねている



31.180°

 

僕の運命は

あの日 あの朝 あのときに

180°ぐるりと回った

その日 その朝 そのときに

僕は徹夜がこたえて

公園のベンチに眠りおちた

 

この日 この朝 このときに

僕は道を尋ねたけど

めんどくさげに存じませんと

妙に艶しい女が答えた

 

昼前 どっかで聞いた歌を

口ずさみながら

我が家にたどり着いた

 

僕はそこに どこかで見た

女がいるのを見た

考えても思い出せない僕は

前にいる女に聞いた

それが運のつきだった

 

そのとき 僕はその女と一生

違う星に住むことにした

 

僕の運命は あの日とその日

あの朝とその朝

あのときとそのとき

90°と90° 180°ぐるっと回った

 

僕の運命は あの日とこの日

あの朝とこの朝

あのときとこのとき

180°と180° 180°ぐるっと回った

 

朝刊配達中 ある家の前で眠りに落ちた

神様に心から願ったものを夢みて

昼過ぎころ ベッドで目が覚めた

 

僕は その家が どこで

なぜここにいるのかわからない

でも 横にいる女と

同じ星に住むことにした



32.白いノート

 

ノートに思いつくまま

ペンを走らせて ときどき

天井を見上げてふっと

ためいきついています

 

もうこんなに大人になってしまったんだね

時が何も言わずに流れていき

後ろからさようならって

ささやいているのでしょうか

 

思い出が積み木のように重なって

今日てっぺんに一つ加えます

今にも崩れそう

もっとうまく積めばよかったって

思っても直すことはできません

 

いろんなことがたくさんあったね

人がいつの間にか 周りの人が変わっていき

みんなそれぞれの生き方をしているのでしょうか

 

このページももうすぐ終わりです

明日は音もなくそっと忍び寄ってきます

 

過ぎた日がまるで人のもののようになって

今日また自分から離れていきます

歌が終るとなつかしい思い出も

同じようにすっと消え 二度と戻ってきません

 

いろいろなことがたくさんあったね

町がいつの間にか 知らないうちに変わっていき

友だちにもそれぞれ成長しているのでしょうか

 

このページをめくると 真っ白

明日はどんなことが書かれるでしょう



33.テーブル

 

月に雫が半分かかった夜

いつだったか 遠い昔

そんな夜があったように思う

 

君と別れたときだった

その日がくるまでの長い間

僕は悩み苦しんだ

いろいろ考えに考えた

君がいなくなればどうなるかなんて

 

そうしているうちに とうとう

その日になってしまって

その日は何があったか

わからないほどあっけなかった

 

君と最後の夜の街

歩きまわって 思い出のところ 駆け巡って

話し残したこと 言いたかったこと

たくさんあったはずなのに だまって口づけして

みつめあったっけ

 

その日の朝早く

君は荷物をもって挨拶にきた

「さようなら」 それだけだった

僕はことばも返せなかったし

見返ることもできなかった

 

そのまま ぐっすり眠った

そして いつものように朝食をとった

何も残らなかった

思ったほどさびしくなかった

あっさり忘れてしまった 何もかも

そのときは



34.消えた恋

 

あれから二年たって

一日たりとも 忘れなかったあなたが

しだいに薄くなっていき

今では そんな人いたっけなんて

幼い頃の記憶のように

ぼんやり あやふやに

そう もう私には何も関係ないの

 

あなたのしみこんでいたものは

しだいに消えていき

今では そんなものあったっけなんて

何もかも消えてなくなり

自然に そう静かに

 

そう もう私には何も関係ないの

そうなるはずだったのに

 

もう一度 帰りたい あなたが

とてもすばらしくみえて

あなたをとても愛した私

その私もどこかにいった

そのあなたもどこかにいった

目の前を通るあなたも

私には素知らぬ人となってしまった

 

恋が愛が心が消えてしまった



35.22時

 

クリスマスの22時

もし僕が あの駅に来なかったら お別れだよ

といいながら そのとき

僕は行かないことを決めていた

 

君の愛は僕にとって

なければならぬものだけど

それがすべてをぶち壊す

 

君との愛は それ以上の

価値のあるものだけど

僕は行かなくては

君を振り切っても

 

待っていてくれる君を 僕は見てる

ホームの柱の影から

次の列車が来るまでは

 

君は待ち続ける 僕は見守り続ける

 

ずっと 君との愛は僕にとって

捨てることのできないものだけど

それが すべてを妨げる

 

君の幸福 僕は願い続け

明日から離れてしまう

悲しみ振り切って

君の去るのを待っている



36.河原

 

いつも君と二人でいった

あの橋の下の河原

あたたかい太陽が

二人をやさしく照らしてた

 

君のことばは いつにもなく流暢で

君の瞳は いつもよりも輝いていた

 

二人をさまたげるものは 何もなかった

時折 橋をうねらす 列車をのぞいて

 

なのに

この時の流れは 今も絶えないのに

橋を渡る 汽車の汽笛が悲しい

今はもう 一人きり

 

なのに

この詞の流れは 今も絶えないのに

橋ゆく汽車の汽笛 悲しい

今はもう 一人きり

 

あたたかい太陽が

いつ知れず隠れた

雨に濡れることさえ

うれしくて 君の髪は美しかった

 

二人はゆっくり 橋の下に行った

そうすることが ロマンスだった



37.時は流れ 人は去る

 

なぜ時は流れ 人は去るの

誰がそんなことを決めたの

ずっと昔から そうなっているの

どうして時は流れ 人は去るの

人の心を悲しませ 傷つけ

感傷の中で暮らすの

 

そうしたのは 誰なの 教えて

いたずらキューピット それとも可愛い悪魔

これ以上私を苦しめないで

無理なことをお願いはしないわ

ただ すべてを忘れさせて

もう二度と考えたくはないの

 

なぜ時は流れ 人は去るの

誰がそんなことを決めたの

人は生まれたときから そうなっているの

どうして時は流れ人は去るの

人の心を振り返り

そしてなつかしみ 思いにふけって生きるの

 

アダムとイブ それとも

ロミオとジュリエット

これ以上 私に寄り添わないで

あの日を戻せはしないわ

だから すべてを忘れさせて

もう二度と考えたくはないの



38.透明な風船

 

何があるっていうんだい

愛する僕の世界に

あこがれ 愛 そんなもの

そんな形のないものが

風船のように ただよって

上にもいかず 下にもおちず

少しの風のなすままに

さまよっているんだよ

 

それが僕の愛するものか

空虚だ 何もない

赤い風船なら 赤いといえるし

青い風船なら 青いけど

 

僕は透明な風船

たまに色がつけばいいのに

いつも形も見えない

中味がからっぽなのは

僕の運命 形さえ 認めてもらえぬ

 

透明は悲しすぎるほど純情で

染まる色などない



39.詩4首

 

試合終え 駆け込む店にみつけたり

若き日 抱きしめし一冊

 

降る雪は ふんわり やさしく

積もりし雪は 憎らし歩かせぬ

溶ける雪は 何より悲し

哀しみは苦しみの及ばぬところなり

 

一日かけ 求めし本はみつかりし

夜風 冷たく 心あたたか

 

手にとりて めくればうれし 啄木の

昔おぼえしかの唄を口ずさむ



40.幸福論

 

なぜそんなに悩みたがるの

君は青春のど真ん中にいるのに

高い空は伸ばした手のずっと上

見上げてごらん 微笑んで

ただ それだけでいい

 

夕日を思い浮かべ 泣いたって

涙が尽きる頃には また日は昇る

精一杯 朝の空気を吸い込んで

湿っぽい朝もやを吹き飛ばし

走ってごらん 息が続く限り

君はいつのまにか 若さに出会うだろう

 

この道を歩いていた

一年前は幸せなんか 感じなかった

今日と同じような夜だった

それが当たり前のように思っていたし

確かに それが当たり前であった

 

幸せというものは 過ぎた後で気付くもの

そんなことばがあったのかしら

気付いたときはもう遅すぎるなら

幸せなんて ないことになる

 

だから今日一人で 歩くのも当たり前

そう思っていても ネオンの光に

外れて 一つひびく

足跡はさびしい 思いがつのり

こんな私の幸福論となったのかしら

 

なぜそんなに悲しい顔するの

広がる海は見渡す限り ずっと向こう

見渡してごらん そして微笑んで

 

闇夜を思い浮かべ やるせなくったって

どこかにきっと きまぐれな星がいる

悲しみを夜の静けさにそっとおいて

名残惜しさを振り切って

叫んでごらん 声が続くかぎり



41.街角で

 

泣いているとは思われたくないの

哀しみは通り過ぎていくのに

涙だけが頬をつたうだけなの

 

通り過ぎる人が首をかしげ

それでも人ごとに過ぎない

暗い空がなぐさめてくれる

誰にも辛いことはあるもの

 

心のもやを取り払え

そんなに小さく片隅で 震えていないで

あの雲を切り開けば

暖かい日差しがみえるだろう

 

あの空を突き抜ければ

何も沈んだものなどないさ

そんなこと できないことさ

それなら それでいいさ

 

無理に笑おうとすれば

よけいにものさびしくなるし

流れ涙も 尽きるだろう

Vol.7-2

 

26.ジレンマ

 

そこにやりたいものがある

だから やらなきゃいけない

それをやることが 僕にとって

何よりも幸せを感じることになる

 

but・・・

 

そこにいきつくのは あまりにも遠い

だから ときどき

僕は見ぬふりをしたくなる

そこから逃げたくなる

 

燃える心に苦しみたくない

今の自分がみじめになるから

 

でも じっとしていたら

何もできない

それを思うたびに

僕の胸は煮えたぎり 体中に火はつくのに

 

but・・・

 

わかっていて何ともできぬ

この空しさは

できぬと決めつけ 試そうともしない

情けなさは

 

そのときだけは燃えても

あとは手を引いてしまう

 

時を待つだけ あてにできぬ

人を待つだけ 会えもせぬ

 

ただ こぶしを握りしめて

自分の頭を抱えているだけ



27.夢の国

 

美しき時代よ

その真っ只中にいるが

果たして そうなのだろうか

 

時は待ってはくれない

いつの間にか 大人となる

抱いている夢は 叶えられぬまま

きっと 忘れようとするだろう

 

何とかしなきゃいけない

今 すぐにでも

飛び出すんだ 怖じけてはいけない

今 しかないんだ

 

自分が終わりたくなければ

やってみろ すべてを犠牲にして

中途半端な気持ちを振り切って

 

だめだ 僕にはできない

安全地帯から出て 夢の国の建設を

すばらしさは知っていても

戻るところを失うなんて

できっこない

 

夢の国 歩こうともしないのに

そんなこといって

悔やむのは 僕なのに

失敗して すべてを失っても

そうしたい ほんとうの気持ち

 

でも できない ぼくにはどうしても



28.海辺にて

 

紅色の砂浜に 足跡つけて

波のように跳ねまわる君

海を見るのが はじめてのように

その大きさに飲み込まれてる瞳

 

水平線のほかは 何もない

どこまでも広く 底の見えない海

君は くたびれたのか

打ち上げられた大木に座ってる

 

砂に指で 何かを書いて

おかしそうに笑っている君

波が押し寄せて その作品を壊すと

顔をふくらましてる あどけない人

 

二人のほかには 誰もいない

沈みかけた太陽が こちらを見てる

君は 貝殻 拾い始めたね



29.窓

 

はじめて君から電話がかかり

僕は何かと電話機をとった

いつものように

二階の窓を開ければいいのに

 

透き通った声

ほんとに君なのかと思うぐらい

一言 二言 話すと

君は急にだまりこんだ

 

明日 海を渡って行くんだって

いつもは だまされている僕だけど

今日は 4月バカでいたかった

 

いつも二階からデート

町であっても知らん振り

そんな君が好きだった



30.ベル

 

きみの家は 角から2軒目

ぼくの きみの家

 

二階建てで 緑に囲まれて

日差しあびて 輝いている

きみに会いたい

 

あのベルを押せば 明るい笑顔で

きっと君が出てくるだろう

 

この丘からの景色は最高

きみに会いたい

 

あの頃 ぼくらにはベルなど要らなかった

今ではきみとの 境界線

 

きみに会いたい

 

疲れ果てたぼくは ただ待っている

きみが窓から顔を出すまで



31.ことば探し

 

あなたに捧げようと

美しいことばを 探しているのに

いつまでたっても 浮かんでこないのです

心の中をそのまま 言い表せる

そんなことばが欲しいのです

 

あなたが瞳を閉じて

うっとりと 何度も噛みしめてくれる

そんなことばが欲しいのです

 

あなたに捧げようと

待てば待つほど 遠くなってしまうのです

僕の気持ちを語ってくれる

あなたが胸に手をあてて ずっと

すべてを悟ってくれることばが欲しいのです



32.橋の上にて

 

村のはずれにある小さな橋

月が川に流れているよ

いつも この上から見ながら

何もせずに じっとしているんだよ

 

寒くはなかったし 忙しくもなかった

僕らは ほんの少しの別れを惜しみあった

他に誰もいなかったし

村はいつもよりさびしかった

 

また会うことが決まっていながら

どうして こんなに悲しいのかな

 

いつも ここにくると立ち止まり

口をつぐんで じっとしているよ

すぐに帰りたくはなかったし

別れたくもなかった

 

僕らは橋が見えなくなるほど そこにいた

何もすることはできなかったけど

 

ただ 愛していた



33.卒業

 

いいかい 覚えておきなよ

今日という日は

ここを抜け出す日じゃない

 

ど真ん中に

つっこんでいく日なんだ

 

楽しかった そんな時代は

終わったかもしれない

友が そう呼べなくなる

時代になるかもしれない

 

卒業した それだけのことさ

一番大きなことは

思い出と埋もれていき

卒業した それだけのことさ

 

いいかい 忘れちゃいけないよ

今日という日は

巣立つ日じゃない

 

荒波の中に

飲み込まれていく日なんだ

 

苦しかった そんな時代は

終わったかもしれない

友が 一人ずつ去っていく

時代になるかもしれない

 

卒業した それがすべてさ

一番 大きなことは

これまでのことがどうであれ

卒業した それだけのことさ



34.十五夜

 

月がとても 風流で

秋風少し 気になるけど

風呂あがり

縁側に出て ひと休み

 

古うちわ 取り出して

蝉が少し うるさいけど

イカをつまみに

たった一人の十五夜

 

何かもの足りない 秋のせい

あの山に 君と取りに行った

すすきが今日はない

 

夜が更けるにつれ 君を

いつの日かの君を

思い出すのは

あの 団子の味

 

きっと あの月は 君をみてるだろう

どこにいるのか 僕は知らない

ただ 君は 月の好きな

月のような人だった



35.函館本線

 

旅の疲れに いつの間にか

眠りにおちて

知り合ったばかりの君に

揺り起こされた

 

窓に広がる 海が輝いて

まばゆいばかりの 赤い夕日

見つめる 君の瞳は動く

飛びまわる海鳥を追って

 

汽車は のんびりと

夏の草原をゆく

君の表情も 流れる景色のように移ろいで

カラスも 山に帰る

 

旅の終わり果てるとき

汽車はなつかしい駅につく

タラップ飛び降りて

名残惜しく 君に

別れを告げる

 

路線橋を渡っていると

始発ベルが鳴りひびく

手を振り

別れを告げる



36.巡る

 

あの空を 広い空を飛び

遠くにいこう

あの海を 緑の海を渡り

遠くにいこう

 

どこまでいくのか

何しにいくのか わからない

信じよう そこに何かがあることを

 

あの風に うずまく風に乗り

遠くにいこう

あの雲を 逃げいく雲を追い

遠くにいこう

 

何があるのか

どうなるのか わからない

信じよう そこに何かが生まれることを

 

そんなことないさ あるはずないさ

出会いもなかった炎が

気づかぬまま 消えてしまうなんて

 

まわりめぐる時間と

空間の中に放り込まれたまま

さまよい さまよい つづけて

 

誰も愛さず 愛されず

汗も涙も流さず

 

もう遅すぎる炎が

いつの間にか 色あせてしまったなんて

 

春夏秋冬を追いかけるのが精一杯

巡り 巡り つづけて また巡る



37.虚構の恋

 

君の飲み残したコーヒーながめて

体を包み込む 寂しさ払いのけ

悲しさ振り切って

僕も出て行こう

このつくられた世界から



38.湖畔の思い出

 

湖畔に一人たたずみ

やさしいそよ風に 髪をながしていた

あなたはどこにいるのでしょう

深い湖は どこまでも荘厳で

答えてくれない

 

あてもないまま ここまで来たけど

これから どうすればよいの

一度だけ 紅葉に 胸ときめかし

二人でボートに乗った湖

今は涙にむせて 砂にひざをつく

 

湖畔は夕暮れ 日が落ちて

かすみゆく山々に 思い募らせ

澄んだ湖は いつまでも

我知らずと 黙っている

 

今日もまた いつものように

何一つ わからなかったの

一度だけ この岸で抱いてくれた

二人で砂にまみれた湖

今はわずかに波よせて 想い揺らぐ



39.夢人

 

夢をみたい すべてをこの頭から追い払って

安らかな夢を ひたすらに

限りなく大きな夢をみたい